最新記事

インドネシア

SB孫会長、ブレア元英首相らインドネシア首都移転の「顔」に 投資期待も移転は実現可能?

2020年1月21日(火)18時05分
大塚智彦(PanAsiaNews)

首都移転、実現に疑問の声は与党からも

首都ジャカルタの人口集中に伴う渋滞、物流の停滞などに加えて地盤沈下、洪水などの災害といった弊害を避け、地理的に広大なインドネシアの東西南北のほぼ中心に位置し、自然災害の可能性が低いとされる東カリマンタン州に首都を移転する計画は、ジョコ・ウィドド大統領の「国民に夢を与える政策」を企図したものとして発表された。

しかし発表直後から巨額資金の捻出方法、新首都予定地の開発に伴う自然破壊や活断層の存在の可能性、経済界の否定的見解などから実現を疑問視する声が相次いでいるもの事実だ。

2024年にも首都移転に着手したいとするジョコ・ウィドド政権だが、2019年に再選を果たしたジョコ・ウィドド大統領の大統領任期は2024年までであり、さらに憲法の再選規定で次期大統領選挙への出馬はできない。

つまり首都移転計画を政権の浮揚策として具体的な準備をあれこれと推進してはいるものの、移転開始時期以降はジョコ・ウィドド大統領はもはや政権に留まっていないという現実がある。

こうした点や現在のジャカルタが過密状態であるとはいえ政治・経済・社会・文化の中心地であることには間違いなく、首都移転がどこまで現実的に可能かについては財務当局も大いに疑問を抱き、醒めた目で見ているとされる。

最大与党でジョコ・ウィドド大統領の支持母体でもある「闘争民主党(PDIP)」の幹部ですら「経済機能の移転は困難というのが現実であり、首都移転計画がもし実現するとしても首都機能の一部移転、つまり自然が豊かな東カリマンタン州だけに環境行政を司る官庁などの移転だけで終わるのではないか」と発言する状況だ。

それであっても「首都機能を地方に分散することで部分的には首都移転を果たしたと国民や国際社会には説明できるとジョコ・ウィドド大統領や政府は考えているのではないだろうか」(PDIP幹部)というのだ。

そうしたインドネシア側の現実をどこまで理解して孫会長が投資に積極的な姿勢を示しているのかは不明だが、インドネシア財界からも「巨額の赤字を抱えていると伝えられるソフトバンクからの大規模投資には現実味があるのだろうか」との懸念の声もでている。

ソフトバンクは2019年7月にインドネシアで出資している配車大手のグラブ社を通じて電気自動車事業に約20億ドル規模の投資をすることを発表しており、インドネシアとの関係を強めている。

otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など



20200128issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年1月28日号(1月21日発売)は「CIAが読み解くイラン危機」特集。危機の根源は米ソの冷戦構造と米主導のクーデター。衝突を運命づけられた両国と中東の未来は? 元CIA工作員が歴史と戦略から読み解きます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任へ=関係筋

ビジネス

物言う株主サード・ポイント、USスチール株保有 日

ビジネス

マクドナルド、世界の四半期既存店売上高が予想外の減

ビジネス

米KKRの1─3月期、20%増益 手数料収入が堅調
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中