最新記事

医療

中国の肺炎対策は(今のところ)合格点

2020年1月20日(月)11時40分
ダニエル・ルーシー(ジョージタウン大学非常勤教授)、アニー・スパロウ(マウント・サイナイ医科大学助教)

1月25日の旧正月(春節)前後には数億人が中国内外を移動する(2018年、上海の鉄道駅の様子) Aly Song-REUTERS

<2002年のSARSでは感染拡大を招いたが、中国の保健当局は今回、謎の新型肺炎発生から約1カ月で原因ウイルスを特定し、その遺伝子情報を世界と共有した。これから1カ月は、当局の見立てが正しいかどうかを検証する重要な機会となる>

中国南部でSARS(重症急性呼吸器症候群)が2002年に確認され世界に広がった当初、中国当局はその事実を隠そうとして感染拡大を招いた。

今回は違う。

2019年12月に湖北省武漢市で初の感染例が報告されると、中国の保健当局は約1カ月で原因が新型コロナウイルスであることを特定。その遺伝子配列情報を世界に知らせて、各国が迅速に検査態勢を整えられるようにした。

とりわけこの時期は、インフルエンザなど呼吸器系疾患を引き起こす感染症が流行しやすく、新型コロナウイルスが原因だとすぐに見極めるのは容易ではない。それだけに、遺伝情報を迅速に世界と共有したことは極めて有意義だ。

今回の流行の原因を探る上で最大のヒントとなるのは、初期の感染者が武漢市の海鮮市場(水産物だけでなく生きた動物も扱っている)に出入りしていたことだろう。その全員が12月8日から1月2日までの間に肺炎とみられる症状を訴えた。

ウイルスに接触してから発熱や咳、呼吸が苦しくなるなどの症状が表れるまでの潜伏期間は、まだはっきり分かっていない。1月半ばの段階で死者は2人。ただ、SARSのときは世界で1700人を超える医療従事者が感染したのに対して、今回の新型コロナウイルスにさらされた可能性のある医療従事者419人のうち、感染者は今のところゼロだ。

武漢の海鮮市場と新型肺炎の関連が明らかになったのは1月1日。武漢市はその日のうちに市場の閉鎖を決定して、即日実行した。これにより新たな感染者が報告されるペースは大きく下がった。

感染源の動物を探せ

一部の報道のとおり、このウイルスが人から人に容易に感染しないのであれば、武漢市全体に蔓延したり、旅行者を介して世界中で大流行したりするとは考えにくい。1月25日の旧正月(春節)前後には数億人が中国内外を移動する。この1カ月は、その見立てが正しいかを検証する重要な機会になるだろう。

いま急がれているのは、感染源となった動物を特定することだ。これには、1月7日に新型コロナウイルスが分離・同定された後、中国の研究者たちが開発したウイルス検査方法が使われることになるだろう。そして感染源となった動物が分かれば、武漢市をはじめ中国内外の市場で扱われている同じ動物が検査されることになる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請1.8万件増の24.1万件、予想

ビジネス

米財務長官、FRBに利下げ求める

ビジネス

アングル:日銀、柔軟な政策対応の局面 米関税の不確

ビジネス

米人員削減、4月は前月比62%減 新規採用は低迷=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中