最新記事

経済政策

日本と同様の人口減少を迎えるユーロ圏が受け入れるべき「期待しない時代」

Will Eurozone Policymakers Take The Long View?

2020年1月18日(土)14時00分
ダニエル・グロー(欧州政策研究センター研究部長)

ユーロ加盟国の生産年齢人口は今後10年、減少傾向に Nevarpp/iStock.

<景気刺激策を続けても人口減少の影響は穴埋めできないという事実>

新しい年の始まり、しかも新たな10年の始まりは、経済政策を長期的な視点から振り返るのに格好のタイミングだ。数十年に1度の金融危機の後遺症にとらわれた2010年代は、金融・財政面の景気刺激策が明らかに正当とされた10年間だった。事実、政府による大規模な財政拡大とそれに続く異例の金融政策は、このグレート・リセッション(大不況)が1930年代の世界恐慌の再来と化すのを防ぐ上で役立ったとの認識が今では一般的だ。

だが、こうした緊急措置を2020年代も継続するのか。継続する場合、どのような長期的影響を予期すべきか。とりわけユーロ圏の政策立案者らに突き付けられているこの問いに答えを出そうとすると、たちまち経済学の限界にぶち当たる。

経済理論と数々の証拠が示唆するように、金融刺激策は短期的には需要増と雇用増につながる。金融市場が混乱している状況では特にそうだ。だが市場が正常に機能している場合の長期的影響については、エコノミストたちの意見は根本的に食い違う。

長引く景気低迷への対策として財政政策を用いた顕著な事例が日本だ。約30年前のバブル崩壊以来、日本政府は巨額の財政出動を続けてきたが、GDP成長率は冴えないまま。国民1人当たりGDPの成長率はずっとましとはいえ、はるかに規模の小さい財政政策を実施する先進国と同程度だ。

日本のGDP成長率と1人当たりGDP成長率における違いは、長期的経済政策の立案に当たって人口動態上の傾向が持つ重要性を浮き彫りにしている。バブル期の日本の生産年齢人口は年に約1%増加していたが、現在では約1%ずつ減少。つまり、生産性を維持しながらも、日本の潜在成長率は約2%減少したと想定できる。

ユーロ圏は今や、日本と同様の傾向にある。ユーロ加盟19カ国の生産年齢人口は今後数十年間、1年当たり約0.4%の減少が予測されており、ユーロ圏もGDP低成長時代に直面する可能性が高い。

人口減少に経済的に有益な意味合いを見いだすのは難しい。政治システムが有権者への経済的利益の分配を中核に据えているとなれば、なおさらだ。ユーロ圏の停滞気味の成長を押し上げる手段として、政治的により好ましく思えるのはインフラ投資の拡大だろう。国債発行増で資金を賄えば、財政的な痛みもない。しかし、インフラ投資を妙薬と見なしてはならないことは、日本を見れば分かる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

英政党献金、第3四半期はリフォームUKが最大 実業

ワールド

ウクライナの子ども7人がロシアから帰国、トランプ夫

ワールド

米国の対中貿易、均衡へ規模縮小の必要性も=USTR

ワールド

米軍、「麻薬船」攻撃 4人殺害と発表
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 6
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 7
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 8
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 9
    【トランプ和平案】プーチンに「免罪符」、ウクライ…
  • 10
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 4
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 10
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中