最新記事

イラン

米イラン衝突の号砲となったイラン司令官殺害攻撃の内幕

2020年1月8日(水)11時27分

ドローンで標的を下見

革命防衛隊「コッズ部隊」を率いるソレイマニ司令官は、イラン国外での秘密作戦の立案者として、中東におけるイランの軍事的影響力を拡大することに貢献していた。62歳のソレイマニ少将は、アヤトラ・アリ・ハメネイ最高指導者に次ぐ国内ナンバー2の有力者と見なされていた。

元イラク国会議員であるムハンディス氏は、イラクの「人民動員隊」(PMF)を統括していた。PMFは、イランの支援を受けたシーア派民兵を主力とする民兵組織の統括団体で、以前はイラク正規軍に公式に統合されていた。

ムハンディス氏はソレイマニ司令官と同様、以前からずっと米国の警戒対象になっており、すでに米国は同氏をテロリストとして認定していた。2007年、クウェートの裁判所は同国で1983年に発生した米国・フランス大使館爆破事件に関与した罪により、欠席裁判ながら同氏に死刑判決を下している。

中東地域における米軍攻撃の中核としてソレイマニ司令官が選んだのは「カタイブ・ヒズボラ」だった。民兵組織幹部の1人がロイターに語ったところでは、ドローンを使ってロケット弾攻撃の標的を偵察する能力を備えていたからだという。この民兵組織幹部によれば、ソレイマニ司令官指揮下の部隊が昨秋イラク国内の民兵に供給した兵器の1つが、イラクが開発した、レーダーによる監視システムを回避できる能力を備えたドローンだったという。

民兵組織の動きを監視している2人のイラク治安当局者によれば、「カタイブ・ヒズボラ」は、ドローンを使って米軍部隊が配備された地点の空撮映像を収集していたという。

米軍への攻撃は増加・高度化

イラク国内では、米軍部隊が駐留する基地に対しイランの支援を受けた組織による攻撃が増加、その手段も高度化していた。ある米軍高官は12月11日、あらゆる当事者が統御不可能なエスカレーションへと追いやられている、と語った。

この高官の警告の2日前には、バグダッド国際空港近くの基地に4発のロケット弾が着弾し、イラクの精鋭部隊であるテロ対策部隊(CTS)の隊員5人が負傷した。この攻撃についてはどの組織も犯行声明を出していないが、ある米軍当局者は、情報機関による活動及びロケット弾・発射機に関する現場検証によれば、イランの支援を受けたシーア派ムスリム民兵組織、特に「カタイブ・ヒズボラ」と「アサイブ・アフル・アル・ハック」の関与が疑われると話している。

12月27日には、イラク北部の都市キルクークに近いイラク軍基地を狙って30発以上のロケット弾が発射された。この攻撃により、米国の民間請負業者1人が死亡し、米軍・イラク軍の軍人4人が負傷した。

米国政府はこの攻撃を「カタイブ・ヒズボラ」によるものとして非難したが、同組織は否認している。米国は2日後、「カタイブ・ヒズボラ」に対する空爆を行い、少なくとも民兵25人が死亡、55人が負傷した。

こうした攻撃は、2日にわたって、イランの支援を受けたイラク民兵組織の支持者による暴力的な抗議行動を引き起こした。彼らは米国大使館の境界に押し寄せ、投石した。これを受けて米国政府は同地域に増援部隊を派遣し、イラン政府に対し、実力行使をほのめかすに至った。

1月2日、つまりソレイマニ司令官殺害の前日、マーク・エスパー米国防長官は、予想されるイラン支援下の民兵組織による攻撃から米国民の生命を守るため、予防的な行動を取らざるをえない可能性があると警告した。

「状況は変化した」と同長官は語った。

(翻訳:エァクレーレン)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます



20200114issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年1月14日号(1月7日発売)は「台湾のこれから」特集。1月11日の総統選で蔡英文が再選すれば、中国はさらなる強硬姿勢に? 「香港化」する台湾、習近平の次なるシナリオ、日本が備えるべき難民クライシスなど、深層をレポートする。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:日銀、柔軟な政策対応の局面 米関税の不確

ビジネス

米人員削減、4月は前月比62%減 新規採用は低迷=

ビジネス

GM、通期利益予想引き下げ 関税の影響最大50億ド

ビジネス

米、エアフォースワン暫定機の年内納入希望 L3ハリ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中