最新記事

日本経済

20年前、なぜ日本は「黒船CEO」ゴーンを求めたのか

Black Ship CEOs

2020年1月29日(水)18時50分
千葉香代子、大橋希、井口景子(東京)、李炳宗(ソウル)、クリストファー・スラビック(ロンドン)

それはまさに、日本経済がおかれた状況の縮図でもある。外国の企業や買収ファンドの出資を受けて経営陣に外国人を迎える例は、銀行や証券、生保、通信など自動車以外の業界にも広がっている。

外資が経営のトップに人材を送り込むのは、資本の論理より組織の論理を優先し、改革を先延ばしにする日本の会社を一気に生まれ変わらせるためだ。「日本の企業には、株主の利益を守ろうとするメカニズムが欠けている」と、多摩大学の中谷巌学長は言う。「外国人社長はそれを補完し、強化するために送られてくる」

とはいえ、経営者が外国人になることは、組織の職制からオフィスのレイアウトまで、企業のあらゆる側面に「異文化」が持ち込まれることを意味する。

昨年夏、ドイツの鉄鋼商社クロックナーを買収したイギリスの鉄鋼商社バリは、資金移動をめぐってドイツの検察当局が捜査に乗り出すほどの内紛に悩まされている。社内の対立が深刻化したのは、買収直後から噴き出した文化摩擦が原因だとみられている。

バリは社内の公用語を英語にし、本社をロンドンに移転。イギリス人のCEO(最高経営責任者)を送り込み、労働組合の影響が強い経営監視委員会をリストラしようとしたが、それらすべてがクロックナーの反発を招いた。「アングロサクソン式のマネジメントを持ち込んだとたん、関係が悪化した」と、バリの広報担当者ローランド・クラインは言う。

会議のやり方も様変わり

年功序列や終身雇用が定着した日本では、こうした摩擦はなおさら深刻な問題だ。何事も合理的な欧米の手法が取り入れられることに、社員が戸惑うこともある。

日産ではゴーン体制になって以来、性別や国籍、年齢は関係なく、能力に応じて地位が決まるようになった。「自分は何歳くらいになったらこのポジション、と想像しながらやってきたのが突然崩れたので、複雑なところはある」と、グローバル広報・IR部の濱口貞行主管(45)は言う。

急速な業績回復も目先の利益を優先した結果であり、エンロンのスキャンダルに象徴される「行きすぎた株主重視」の危険を伴うのではないかといぶかる声もある。

自動車業界では、今年3月期の決算で売り上げに占める原価率の減少幅がトヨタは3%だったのに、日産と三菱は5%前後も改善した。売り上げが伸びていないのに原価率が下がったのは、それだけ厳しくコストを削ったということだと、日興ソロモン・スミス・バーニー証券の松島憲之は言う。

「コストカットは無理強いすればできるが、短期的な利益を優先して技術への先行投資を怠れば、数年後には必ずそれがモノづくりにはね返る」と、松島は言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米財務長官、FRBに利下げ求める

ビジネス

アングル:日銀、柔軟な政策対応の局面 米関税の不確

ビジネス

米人員削減、4月は前月比62%減 新規採用は低迷=

ビジネス

GM、通期利益予想引き下げ 関税の影響最大50億ド
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中