最新記事

犯罪

巨大児童ポルノサイト捜査で逮捕者300人超──韓国で拡大するダークウェブ

2019年12月23日(月)16時25分
トロイ・スタンガローン(米国韓国経済研究所研究員)

韓国政府はダークウェブの取り締まりに力を入れ始めたが ILLUSTRATION BY BRO STUDIO-SHUTTERSTOCK

<暗号通貨出現によって国家監視の及ばない決済手段が普及し、犯罪の温床となってきたダークウェブ。韓国男性運営の「ウェルカム・トゥ・ビデオ」からは25万点以上の児童ポルノ映像と100万回超のダウンロード件数が>

米英韓などの警察当局がこの10月、いわゆるダークウェブ(闇ウェブ)の児童ポルノサイトをめぐり、これまでに世界各国で300人以上を逮捕・訴追したと発表した。捜査機関は、支払いに用いられたビットコインの取引を追跡することで関係者の検挙にこぎつけた。

問題のサイト「ウェルカム・トゥ・ビデオ」は、現在までに明るみに出たなかで最大規模の児童ポルノサイトとされている。捜査で見つかった映像は25万点以上。ダウンロード件数は100万回を超すと見られている。

一般のネットユーザーにはアクセスできないダークウェブのアイデアが生まれたのは1990年代後半。当時は、アメリカのスパイが秘密の連絡を取る手段として期待されていた。結局、この構想は実現しなかったが、人権活動家や民主活動家が専制国家の監視を逃れて連絡を取り合うために役立つと考えられた。

しかし、ダークウェブは犯罪の温床にもなった。ビットコインなどの暗号資産(仮想通貨)の出現により、国家のコントロールが及ばない決済手段が普及し、この傾向に拍車が掛かっている。

ウェルカム・トゥ・ビデオのサイト運営者は、韓国人男性のソン・ジョンウ。容疑者の3分の2は韓国人だ。

6人だけだった捜査班

児童ポルノサイトは一般に、罰則が軽く、監視が手薄な国に拠点を置く傾向がある。その点、韓国では児童ポルノの制作や配布はともかく、所持に対する罰則が国際的に見てかなり軽い。

韓国でソンにくだされた判決は1年半の実刑。有罪になった韓国人ユーザーたちも、数千ドル相当の罰金を科されただけだ。アメリカでは、この事件で既に15年以上の実刑判決がくだった人物もいるという(ソンは今後、アメリカに身柄を送られて裁かれる可能性がある)。

今回の事件を受けて、韓国も児童ポルノ対策に乗り出した。国会には、最高刑の引き上げを目指す法案が提出されている。政府も大法院(最高裁判所)に対して、量刑ガイドラインを作成するよう要請した。韓国の裁判所で軽い刑しか言い渡されないことが多い要因として、量刑ガイドラインが存在しないことが指摘されているためだ。

しかし、ダークウェブ上で横行する犯罪は児童ポルノだけではない。ユーザー全員が犯罪に手を染めているわけではないが、韓国では世界の平均よりも速いペースでダークウェブの利用が拡大している。1日当たりの利用者数は平均で1万5591人。この数字は、2016年の約3倍だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

再送-〔アングル〕日銀、柔軟な政策対応の局面 米関

ビジネス

3月完全失業率は2.5%に悪化、有効求人倍率1.2

ビジネス

トランプ氏一族企業のステーブルコイン、アブダビMG

ワールド

EU、対米貿易関係改善へ500億ユーロの輸入増も─
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 10
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中