最新記事

核軍縮

米ロ会談:トランプは「最後の核軍縮」も潰すのか

Donald Trump is failing to save U.S. and Russia's Last Arms Control Deal

2019年12月11日(水)18時30分
トム・オコーナー

ワシントンで共同記者会見を行ったロシアのラブロフ外相とアメリカのポンペオ国務長官(2019年12月10日)Jonathan Ernst-REUTERS

<米ロ間の核兵器削減条約を更新したいロシアに対して、中国を加えたいアメリカ。このまま失効すれば核軍縮体制が崩壊する>

ドナルド・トランプ米大統領は、米露間の失効間近の核軍縮条約を更新しよう、というロシアのウラジミール・プーチン大統領の申し出を拒否する構えにみえる。専門家によれば、トランプのこうした姿勢は世界の戦略的安定を脅かす可能性がある。

問題になっているのは、2021年2月に期限が切れる新戦略兵器削減条約(新START)だ。

ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相と12月10日にワシントンで会談したマイク・ポンペオ米国務長官は同日、トランプ政権は米露以外の国や核以外の兵器を条約に組み込むために枠組みの拡大を目指していると述べたが、その具体的な方法についてはふれなかった。

ラブロフがアメリカとの協議に臨む前には、プーチン大統領が新STARTの更新に向けて無条件で交渉を開始する用意があることを表明した。

ポンペオとラブロフは会談後、軍縮に関する意見の相違について今後も協議を続けることを表明したが、冷戦終結以来アメリカが破棄した他の条約と同様、新STARTの失効を防ぐという確固たる姿勢発表には至らなかった。

「ポンペオ長官のコメントは、新STARTの延長を戦略的安定性の点で後退とみなし、それならば何もないほうがいいという意味に聞こえる」と、アメリカの独立機関「核脅威イニシアティブ(NTI)」の世界核政策計画のリン・ルステン副代表は述べた。「もちろん、そんな考えは完全に間違っている」

「条約を失効させたら、(核軍縮は)振り出しに戻ってしまう」と、彼女は付け加えた。

ロシアは延長希望

ソビエト連邦が崩壊する数カ月前の1991年、米ソ両国は戦略兵器削減条約(START)に調印し、核兵器の大幅削減を開始した。新STARTはその後継条約として2010年にアメリカとロシアが調印したが、2021年に期限切れを迎える。

これまでのところ、トランプ政権は中国や他の国も軍縮協定に参加する必要があると主張し、新STARTの更新を約束していない。中国は、中国が保有する核兵器は米ロに比べてまだはるかに少ないため、軍縮協議への参加は繰り返し拒んでいる。だが、トランプは先週のロンドンでのNATO西側軍事同盟会議で、「中国は協定を結びたがっている」と発言した。

「中国がアメリカとの軍縮協議をしたがっているなんて、明らかに嘘だ」と、軍備管理協会のダリル・キンボール会長は10日に電話で語った。

ポンペオとの共同記者会見で、ラブロフは中国の参加の有無にかかわらず、ロシアには新STARTを延長する意思があると繰り返した。この条約の延長には、プーチンもトランプも議会の承認を求める必要がない。

「ロシア大統領は、アメリカとロシアの間の最後の軍縮の手段が失われることによる国際社会の緊張を緩和するために、条約を今すぐ延長する準備があることを改めて表明した」と、ラブロフは語った。「ロシアは今日にでも延長する用意がある。ボールはアメリカ側にある」「だがアメリカ側からの具体的な提案はない。しばらく時間がかかるだろう」

<参考記事>核軍縮の枠組みをぶち壊すアメリカ
<参考記事>米中ロの歯止めなき核軍拡時代まであと2年

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米軍麻薬作戦、容疑者殺害に支持29%・反対51% 

ワールド

ロシアが無人機とミサイルでキーウ攻撃、8人死亡 エ

ビジネス

英財務相、26日に所得税率引き上げ示さず 財政見通

ビジネス

ユーロ圏、第3四半期GDP改定は速報と変わらず 9
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 5
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 6
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 7
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中