最新記事

少数民族

ミャンマー少数民族問題の新たな火種──仏教徒ゲリラ「アラカン軍」という難題

Minority Report

2019年11月28日(木)18時30分
今泉千尋(ジャーナリスト)

僧侶ナンダタラの自室にはアラカン軍司令官タワンムラナイン(中央)と副官の写真が CHIHIRO IMAIZUMI

<少数民族が武装闘争を続けるミャンマーで新たな混迷を呼ぶ「アラカン軍」が支持される複雑な理由>

「ゲリラになったのは、15歳のときだった。貧しさから抜け出すにはそうするしかないと思ったから」

丸顔に人懐っこい笑みを浮かべたアウン(29)が、意外な経歴をさらりと明かした。デニムにTシャツ姿、カフェでミャンマー式の甘いコーヒーをしきりに勧める今どきの青年が、ジャングルで銃を片手に国軍と戦う姿はどうにも想像できない。

アウンはラカイン人という少数民族の出だ。彼らが暮らすミャンマー西部のラカイン州は、2017年8月に起きたイスラム系少数民族ロヒンギャに対する大規模な弾圧によって、一躍世に名を知られるようになった。仏教徒であるラカイン人はロヒンギャに対する差別や暴力に加担し、民族対立をあおったとして、世界に「悪名」をはせている。

昨年、同州を取材したときは事件から間もないこともあり、多くのラカイン人がロヒンギャを激しく非難していた。だが、間もなく2年がたとうとしていた今年の夏の取材では、誰もがもっと重大な関心事に気を取られているようで、ロヒンギャのことは忘れ去られたかのように見えた。彼らの心を占めていたのは、地元の武装勢力「アラカン軍」である。

「ゲリラは人生の学校」

ラカイン州では1950年代から民族運動が続いており、アウンも2005年に地元ゲリラの1つに入隊した。最初はジャングルで蛇やトラに襲われるかもと不安で寝付けなかったが、隊の中でも最年少だった彼は、すぐに基地で行われる軍事訓練や、英語や人権の授業に夢中になった。そのときの仲間とは今でも交流があり、彼にとって「ゲリラ隊は人生の学び舎」だった。

ミャンマーには、政府に公認されているだけで135もの少数民族が存在する。モザイク国家を絵に描いたようなその多様性は1948年の独立以来、紛争の火種になってきた。少数民族を戦いに駆り立てるのは、政府や国軍の長年にわたる差別や搾取に対する強い不満だ。

独立時に掲げられた「連邦制」は名ばかりで、多くの少数民族には自治権はおろか学校で自分たちの歴史や言語を学ぶことも許されていない。さらに彼らの居住地では、国軍による強制労働や土地の収奪、住民に対する暴力が頻繁に起きている。また、戦闘が発生するたびに多くの市民が家を追われ、隣国の中国やタイで難民化した。

中央政府は少数民族と和平協議を続けてきたが、その目的は彼らの土地に眠る天然資源や国境貿易の利権だったため、交渉はまとまっては決裂し、新たな紛争が生まれた。2016年にアウンサンスーチー国家顧問が率いる国民民主連盟(NLD)が政権に就き、少数民族との和平を最優先課題に掲げると、やっと状況が変わるという期待が広がった。

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、共和党全国大会の開催地変更も 社会的距

ワールド

豪首相、コロナ景気対策「いずれ脱却する必要」

ビジネス

欧州、銀行保全で連携する必要 EU復興基金利用も=

ワールド

スペイン、外国人観光客受け入れ再開へ 7月から隔離

MAGAZINE

特集:コロナ不況に勝つ最新ミクロ経済学

2020-6・ 2号(5/26発売)

意思決定の深層心理から人間の経済行動を読み解く── コロナ不況を生き残るため最新の経済学を活用せよ

人気ランキング

  • 1

    東京都、新型コロナウイルス新規感染14人に急増 緊急事態宣言解除の目安、3項目中2項目が基準下回る

  • 2

    新型コロナの死亡率はなぜか人種により異なっている

  • 3

    「集団免疫」作戦のスウェーデンに異変、死亡率がアメリカや中国の2倍超に

  • 4

    コロナ独自路線のスウェーデン、死者3000人突破に当…

  • 5

    異常に低いロシアの新型コロナウイルス致死率 陽性…

  • 6

    日本の「生ぬるい」新型コロナ対応がうまくいってい…

  • 7

    東京都、3段階で休業解除へ 感染増加すれば東京アラ…

  • 8

    過激演出で話題のドラマ、子役2人が問題行動で炎上 …

  • 9

    新型コロナウイルスをめぐる各国の最新状況まとめ(2…

  • 10

    気味が悪いくらいそっくり......新型コロナを予言し…

  • 1

    過激演出で話題のドラマ、子役2人が問題行動で炎上 背景には韓国の国民性も?

  • 2

    日本の「生ぬるい」新型コロナ対応がうまくいっている不思議

  • 3

    「集団免疫」作戦のスウェーデンに異変、死亡率がアメリカや中国の2倍超に

  • 4

    カナダで「童貞テロ」を初訴追──過激化した非モテ男…

  • 5

    東京都、新型コロナウイルス新規感染14人に急増 緊…

  • 6

    気味が悪いくらいそっくり......新型コロナを予言し…

  • 7

    コロナ独自路線のスウェーデン、死者3000人突破に当…

  • 8

    反ワクチン派がフェイスブック上での議論で優勢とな…

  • 9

    韓国でまたも「慰安婦問題」 支援団体の不正会計疑…

  • 10

    ビリー・アイリッシュと村上隆のコラボがアメリカで…

  • 1

    「集団免疫」作戦のスウェーデンに異変、死亡率がアメリカや中国の2倍超に

  • 2

    気味が悪いくらいそっくり......新型コロナを予言したウイルス映画が語ること

  • 3

    金正恩「死んだふり」の裏で進んでいた秘密作戦

  • 4

    スズメバチが生きたままカマキリに食べられる動画が…

  • 5

    過激演出で話題のドラマ、子役2人が問題行動で炎上 …

  • 6

    優等生シンガポールの感染者数が「東南アジア最悪」…

  • 7

    コロナ禍で露呈した「意識低い系」日本人

  • 8

    日本の「生ぬるい」新型コロナ対応がうまくいってい…

  • 9

    コロナ独自路線のスウェーデン、死者3000人突破に当…

  • 10

    ロックダウンは必要なかった? 「外出禁止は感染抑…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
Wonderful Story
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!

STORIES ARCHIVE

  • 2020年5月
  • 2020年4月
  • 2020年3月
  • 2020年2月
  • 2020年1月
  • 2019年12月