最新記事

日本社会

学力よりも性別で年収が決まる、日本は世界でも特殊な国

2019年11月6日(水)17時45分
舞田敏彦(教育社会学者)

日本ではフルタイム就業の女性より専業主婦の方が学力が高い傾向すらある Django/iStock.

<日本の学力の高い女性は学力の低い男性よりも稼ぎが少ない――このような社会は先進国ではごく少数>

近代以前では、社会的地位や富の配分は「生まれ」で決まっていたが、近代以降の社会では当人の能力(merit)を重視する「メリトクラシー」の原理が台頭してくる。公平への要求が高まるとともに、外圧に晒される中、そうでないと社会が立ちいかなくなったからだ。

メリトクラシーがどれほど実現しているかは、たとえば当人の教育歴(学歴)と収入の相関から見て取れる。だが学歴で給与を機械的に決める会社は多いし、能力があっても経済的理由で大学に行けない人もいるので、学歴イコール能力とは必ずしもいえない。学歴よりも、テストで計測される学力のほうがいいだろう。ホワイトカラー労働が多い現在、認知面の学力と職務遂行能力は強く相関するようになっている。

国際成人学力調査「PIAAC 2012」の数学の習熟度をもとに、16~65歳の有業者を3つのグループに分けてみる。レベル3未満を低群、レベル3を中群、レベル4、5を高群とする。それぞれの群で、年収が全労働者の上位25%以上の者の割合を出すと、低群では15%、中群では28%、高群では50%となる。稼ぐ人の割合は高学力の群ほど高い。だが、男性と女性で分けると気になる傾向が出てくる。<図1>は、男性と女性で分けて、3つの学力グループの年収分布を図示したものだ。

data191106-chart01.jpg

男女とも、数学の習熟度が高い群ほど年収が高い。きれいな右下がりの傾向になっており、ハイタレントの人ほど稼ぎが多いという、メリトクラシーの社会になってはいる。だが稼ぎを規定するのは当人の学力だけではないようで、女性では学力レベルに関係なく低収入層(下位25%未満)が多い。

よく見ると、女性の高学力グループ(右端)よりも、男性の低学力グループ(左端)の収入のほうが高い。上位25%以上の割合は、前者では19%だが後者では26%となっている。

女性の場合、家計補助のパート勤務が多いからだろう。正社員であっても、収入の高いポジションは男性に占有されがちだ。女性のハイタレントが浪費されている、という印象を受ける。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、ソマリランドを初の独立国家として正式承

ワールド

ベネズエラ、大統領選の抗議活動後に拘束の99人釈放

ワールド

ゼレンスキー氏、和平案巡り国民投票実施の用意 ロシ

ワールド

ゼレンスキー氏、トランプ氏と28日会談 領土など和
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    赤ちゃんの「足の動き」に違和感を覚えた母親、動画…
  • 8
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中