最新記事

北朝鮮

金正恩、核の進化に自信深め強気に転換 米国でのトランプ弾劾も後押しか

2019年11月4日(月)11時55分

中国と劇的に関係改善

国連制裁は維持されているのものの、中国と貿易は増えつつあるようにみえる。北京と平壌の政治的関係は劇的に改善している。

金委員長と中国の習近平国家主席は複数回会い、両政府の関係者が行き来している。

北朝鮮をモニターしているコリア・リスク・グループの調査によると、過去1年間で中国人観光客が大量に北朝鮮を訪れており、それが平壌の大きな資金源になっているという。

今年は35万人の中国人旅行客が北朝鮮を訪れたと、コリア・リスク・グループのチャド・オキャロル氏は推計する。北朝鮮政府に1億7500万ドルの収入をもたらした可能性があるという。

2016年に閉鎖された韓国との合同事業、開城工業団地から得られる収入より多い、とオキャロル氏は話す。金委員長が工業団地への関心を低下させているのは、おそらくこれが理由の1つだという。

米国と韓国は、今年2月にベトナムのハノイで開かれた2度目の米朝首脳会談が不調に終わった後、北朝鮮への妥協案として、開城の再開ではなく観光を提案したと、前出の外交官は明かす。

「いつでも制裁を元に戻せるようにしておく必要があると、誰もが考えたからだ。120以上の工場が再稼動してしまえば、すぐに閉鎖してまた引き揚げるには難しい」

国連の報告によれば、北朝鮮は制裁の多くをうまく逃れている。サイバー攻撃で最大20億ドルを盗んだとみられている。

「スウェーデン政府は、北朝鮮には『中国の安全弁』もあると示唆している。つまり、制裁を緩めるという合意だ」と、ジョージ・メイソンのアブラハミアン氏は言う。「実際に望んでいる以上にトランプ氏が勝利を切望していると北朝鮮が計算違いし、ディールを結ぼうとせず、交渉の扉が失われてしまうことを懸念している」

北朝鮮がつけた自信

トランプ大統領と金委員長の2回目の首脳会談は、どちらも譲らず、突然物別れに終わった。北朝鮮は幅広い制裁緩和を求め、米国は非核化に向けて具体的に動くよう主張した。

「非核化の道を行く金委員長の歩みが正しいのかどうか、ハノイでの失敗が北朝鮮内で議論を呼び起こしたのは明らかだ」と、米スティムソンセンターのシニアフェロー、ジョエル・ウィット氏は言う。

米国や韓国がさらに譲歩するまで交渉は避けたがっているようにみえると、ウィット氏は指摘する。

専門家は、ようやく手に入れた核兵器を金委員長が放棄することに懐疑的で、限定的な軍縮も難しくなりつつあると考えている。

「北朝鮮は、核兵器が質的にも量的にも前に進んだという自信をつけた。さらに要求を強め、厳しい態度で臨み、バーを上げてくるだろう」と、ワシントンにあるセンター・フォー・ニュー・アメリカン・セキュリティのDuyeon Kim氏は指摘する。

Josh Smith Hyonhee Shin

[ソウル 1日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます



20191105issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

10月29日発売号は「山本太郎現象」特集。ポピュリズムの具現者か民主主義の救世主か。森達也(作家、映画監督)が執筆、独占インタビューも加え、日本政界を席巻する異端児の真相に迫ります。新連載も続々スタート!


事故機の捜索について伝える韓国メディア YTN NEWS / YouTube

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

独ポルシェ、傘下セルフォースでのバッテリー製造計画

ビジネス

米テスラ、自動運転死傷事故で6000万ドルの和解案

ビジネス

企業向けサービス価格7月は+2.9%に減速 24年

ワールド

豪首相、イラン大使の国外追放発表 反ユダヤ主義事件
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 2
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」の正体...医師が回答した「人獣共通感染症」とは
  • 3
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密着させ...」 女性客が投稿した写真に批判殺到
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 6
    顔面が「異様な突起」に覆われたリス...「触手の生え…
  • 7
    アメリカの農地に「中国のソーラーパネルは要らない…
  • 8
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 6
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 7
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 8
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 9
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 10
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中