最新記事

躍進のラグビー

ラグビー場に旭日旗はいらない

DON’T SHOW THE FLAG

2019年10月23日(水)16時50分
石戸 諭(ノンフィクションライター)

旭日旗で間違ったメッセージが伝わる可能性もある(2012年に埼玉で行われたサッカーワールドカップアジア最終予選の対イラク戦) KIM KYUNG-HOON-REUTERS

<ラグビーは品位と尊重を旨とするスポーツ。大成功のワールドカップ会場に、差別と結び付き得る旗は似合わない。ラグビーの未来と課題に焦点を当てた本誌「躍進のラグビー特集」より>

ラグビーワールドカップ日本大会で、これまで最もラグビーの精神を感じた瞬間は、アイルランド代表率いるジョー・シュミット監督が、日本に敗れた衝撃的な一戦の直後に語った言葉である。元教師という肩書を持つ名将は、最初の質問に答える前に「日本におめでとうと言いたい。素晴らしかった。本当にビッグチームだ」と、敵を手放しに称賛した。
20191029issue_cover200.jpg
アイルランドの歴史をひもとけば、伝統国かつ世界有数の強豪でありながら、ワールドカップでの戦績はベスト8止まりといつも物足りないものだった。そんな状況を打破すべく、ニュージーランドからシュミットを招聘し、世界ランキングを2位まで上げて今大会を迎えた。公式ガイドブックは「誰もが羨む層の厚さを誇る『グリーンマシーン』が、上位進出を逃すとしたら驚きだ」とまで書いている。

そんななかで敗戦してもなお、シュミットは勝者をたたえることから会見を始めた。現実を受け止め、誰かをおとしめることは絶対にしない。彼の行動はラグビー憲章に掲げられた5つの言葉──品位、情熱、結束、規律、尊重──を体現したものだ。具体化させる行動が伴わなければ、精神は容易に死文化する。

この精神は、観客席にも見受けられる。まずサッカーや野球のようにホームとアウェイで客席が分かれていない。日本-アイルランド戦が開かれた静岡のエコパスタジアムでも、緑の集団と赤と白のジャージを着た集団は入り交じって歓声を送っていた。良いプレーには応援チームに関係なく、試合が終われば勝者には惜しみなく、敗者にも感謝を込めて拍手を送るのがラグビーファン、世界共通のマナーである。

シュミットが激賞したように今大会、日本代表の活躍は目を見張るものがある。アイルランドだけでなく、伝統国かつ強豪国を意味する「ティア1」のスコットランドを28対21で破り、予選プール最終戦で初のベスト8進出を決めた。前半25分に堀江翔太、ジェームス・ムーア、ウィリアム・トゥポウと連続してオフロードパスをつなぎ、最後に稲垣啓太が鮮やかなトライを決めた瞬間のことだ。記者席で、隣のテーブルに座っていた外国メディアの男性記者が思わず立ち上がり、歓声とともに両手を高々と上げ拍手を送っていた。

別の試合だったが、会見で「今大会はオールブラックスより、ジャパンの試合を見たがっている人が多い」という記者の声もあった。結果だけでなく試合内容も、伝統国の目の肥えたメディアを魅了するものだった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...その正体は身近な「あの生き物」
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 6
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 7
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 8
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 9
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 10
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中