最新記事

中東

トランプ「無策」外交でさらに遠のく中東からの米軍撤退

Trump and “Endless Wars”

2019年10月17日(木)18時00分
ジョシュア・キーティング

対ISIS戦ではクルド人勢力と米軍が協力したが(写真は対ISIS戦で死亡した戦友を悼む兵士) ERIK DE CASTRO-REUTERS

<米政権がクルド人勢力を見捨てれば中東地域でISISの再興を招く恐れが>

トルコ軍がシリア北東部に攻め込んでクルド人武装勢力への攻撃を始めると、ドナルド・トランプ米大統領は直ちに、アメリカはこの攻撃を「支持しない」との声明を出した。しかし、この声明には続きがあった。

「政治の世界に足を踏み入れて以来、この手の終わりがなくて意味のない戦争に関わるのはごめんだと私は言ってきた。......トルコは約束している。市民を守り、キリスト教徒を含む宗教的少数派を守り、人道上の危機が起きないようにすると。この約束は今後も守らせる」

いかがだろう。トランプがトルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領を「そそのかして」今回の攻撃に踏み切らせたとは言うまい。だが事実上の「お墨付き」を与えたと言えるのではないか。中東での戦争は金がかかるし複雑怪奇だから手を引く、シリアからも米軍を撤退させるとトランプは言う。しかし現実には、彼の言動によって米軍はますます中東の泥沼に深くはまる公算が高い。

米兵を中東の戦場から引き揚げさせたい。その思いは反トランプ陣営にも共通している。だが実際に米軍がシリアから撤収している証拠はない。トランプ政権の高官でさえ、大統領の発言は「米軍のシリアからの全面撤退を意味しない。50~100人程度の特殊部隊がシリア領内の別な場所へ移動しただけだ」と語っている。

そうであれば、トランプは米兵を祖国へ帰そうとしているのではなく、トルコ軍の邪魔にならない場所へ移動させ、テロ組織ISIS(自称イスラム国)の掃討戦でアメリカと共闘したクルド人を、トルコ軍が掃討するのを助けているだけだ。

オバマの過ちを繰り返す

先月にも妙なことがあった。アフガニスタンの和平交渉を進めるためと称し、トランプは反政府勢力タリバンの代表をアメリカに招くと表明していたのだが、直前になって一方的に交渉決裂を宣言した。もともと妥結の可能性は低かったとしても、アメリカ主導の和平会談を取り消したのはトランプの気まぐれ以外の何物でもない。

どうやらトランプは、軍事力以外で中東情勢に影響を及ぼす方策を知らないようだ。根気強い外交努力には興味がない。だから結果として、ロシアやイラン、そしてトルコに外交面の主導権を握られてしまった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドイツ銀、第3四半期は黒字回復 訴訟引当金戻し入れ

ビジネス

JDI、中国安徽省の工場立ち上げで最終契約に至らず

ビジネス

ボルボ・カーズの第3四半期、利益予想上回る 通年見

ビジネス

午後3時のドルは152円前半、「トランプトレード」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:米大統領選 イスラエルリスク
特集:米大統領選 イスラエルリスク
2024年10月29日号(10/22発売)

イスラエル支持でカマラ・ハリスが失う「イスラム教徒票」が大統領選の勝負を分ける

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 2
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」ものはどれ?
  • 3
    リアリストが日本被団協のノーベル平和賞受賞に思うこと
  • 4
    逃げ場はゼロ...ロシア軍の演習場を襲うウクライナ「…
  • 5
    トルコの古代遺跡に「ペルセウス座流星群」が降り注ぐ
  • 6
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 7
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 8
    中国経済が失速しても世界経済の底は抜けない
  • 9
    ウクライナ兵捕虜を処刑し始めたロシア軍。怖がらせ…
  • 10
    「ハリスがバイデンにクーデター」「ライオンのトレ…
  • 1
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 2
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の北朝鮮兵による「ブリヤート特別大隊」を待つ激戦地
  • 3
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア兵の正面に「竜の歯」 夜間に何者かが設置か(クルスク州)
  • 4
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
  • 5
    目撃された真っ白な「謎のキツネ」? 専門家も驚くそ…
  • 6
    ウクライナ兵捕虜を処刑し始めたロシア軍。怖がらせ…
  • 7
    逃げ場はゼロ...ロシア軍の演習場を襲うウクライナ「…
  • 8
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 9
    裁判沙汰になった300年前の沈没船、残骸発見→最新調…
  • 10
    北朝鮮を訪問したプーチン、金正恩の隣で「ものすご…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 3
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 4
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 5
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 6
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はど…
  • 7
    漫画、アニメの「次」のコンテンツは中国もうらやむ…
  • 8
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
  • 9
    ウクライナ軍、ドローンに続く「新兵器」と期待する…
  • 10
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中