最新記事

ブレグジット

ひとまず離脱延期?ジョンソンの政治的皮算用

2019年10月8日(火)13時26分
オーエン・マシューズ

保守党の党大会で演説するジョンソン首相の本心は HENRY NICHOLLSーREUTERS

<保守党がブレグジット最終提案を発表だが政権の関心は総選挙でどう勝利するか>

ブレグジット(イギリスのEU離脱)の実現より、まずは自分が選挙で勝つことが大事。イギリスのボリス・ジョンソン首相はそう考え始めたらしい。

去る10月2日、ジョンソンは与党・保守党の党大会で、EU側に提示する離脱合意案の最新版を発表した。その内容はEU側にも北アイルランドの自治政府にも笑い飛ばされた。そして彼が、北アイルランドの将来よりも自分の政治生命を重視していることが明らかになった。

つい最近まで、ジョンソンは「離脱延期は保守党の消滅を意味する」と訴えてきた。念頭にあったのは、何が何でもEU離脱最優先と主張する新興のブレグジット党だ。

同党は今年5月の欧州議会選挙で英国内の第1党に躍進。一方の保守党は屈辱的な5位に甘んじた。以来、ジョンソンはブレグジット党に奪われた有権者を取り戻すことを最優先にしてきた。

しかしこの数日で、首相官邸の風向きは変わったらしい。10月末の離脱強行よりも延期を選び、その責任をEU側に、そして残留派が支配する議会に押し付けて、11月早々にも解散・総選挙に打って出る。

ジョンソン政権の元閣僚によれば、そんなシナリオが急浮上している。そしてジョンソンは、そのタイミングなら自分は離脱派のリーダーとして保守党を勝利に導けると確信しているらしい。

既にイギリス議会は、期限までにEU側との合意が成立しない場合は首相が離脱の延期を申請するとの法案を可決している。申請しなければ首相が自ら法律を破ることになる。

結局は10月末に離脱か

この状況で、ジョンソンが取り得る選択肢は4つだ。

まずは、違法であることを承知で延期を申請せず、10月末の離脱を強行すること。この場合は議会で不信任案が可決され、総選挙となる可能性が高い。

2つ目は、延期申請を義務付ける法律の抜け穴を見つけること(形だけの延期申請でEU側に延期を拒否させるなど)。3つ目は、延期申請を拒んで辞任すること。

そして最後が、議会に屈したふりをして離脱を延期し、その上で議会を解散し、「離脱を実現できるのは自分しかいない」という論法で総選挙に臨む。実際に4日には、英政府が延期を要請する方針だと認めたとの報道も出た。

現時点で、保守党の支持率は34%前後でトップ。これに続くのがEU残留派の野党・自由民主党で23%前後。最大野党の労働党は党内が割れていることもあって21%前後に低迷している。イギリスの議会(下院)は単純小選挙区制だから、支持率でトップの党が圧倒的に有利だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国地裁、保守系候補一本化に向けた党大会の開催認め

ビジネス

米労働市場は安定、最大雇用に近い=クーグラーFRB

ワールド

パナHDが今期中に1万人削減、純利益15%減 米関

ビジネス

対米貿易合意「良いニュース」、輸出関税はなお高い=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 2
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..最新技術で分かった「驚くべき姿」とは?
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 5
    骨は本物かニセモノか?...探検家コロンブスの「遺骨…
  • 6
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 7
    中高年になったら2種類の趣味を持っておこう...経営…
  • 8
    教皇選挙(コンクラーベ)で注目...「漁師の指輪」と…
  • 9
    恥ずかしい失敗...「とんでもない服の着方」で外出し…
  • 10
    韓国が「よく分からない国」になった理由...ダイナミ…
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 7
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 8
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 9
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 10
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中