最新記事

韓国【文在寅政権の成績表】

なぜ韓国の若者は失業に苦しみ続けるのか

2019年10月7日(月)11時30分
前川祐補(本誌記者)

ただ、ここでも公共部門では順調に進捗している半面、民間部門では低迷しており、波及効果が限定的だ。韓国雇用労働部によると、全産業における勤続期間1年6か月以上の契約期間満了者が正社員化された割合は約16%(2018年下半期)と、非常に低く厳しい数字といえる。

さらに正社員化されても課題が残っている。正社員化された労働者の大半は、既存の正社員とは別枠の正社員として採用される。

また、非正規として働いていた企業本体ではなく、新たに設立された子会社での採用になるケースも多い。雇用は安定するが、待遇面などの労働条件では格差が存在する。そのため、「低賃金正社員」「無期雇用非正規職」などと表現して正社員化の現状を批判する者も多い。

――最低賃金の引き上げについて
公約では2020年までに1万ウォン(約1000円)へ引き上げるとしていたが、政府は断念した。文政権発足後、昨年まではかなりの引き上げを実現したが、今年から引き上げ幅が縮小している。

それでも、政府統計を見ると賃金格差は縮小しており一定の効果はあったと言える。例えば賃金の上位20%と下位20%の差を表した数値は、過去5年で低下している(=格差が縮小している)。

さらに低賃金労働者に該当する人の割合も、昨年は2割を切るなど縮小している。つまり、職を持っている低賃金労働者に関しては、最低賃金引き上げの恩恵を受けているといえる。

だが同時に、低賃金労働者が多い中小企業や自営業においては経営難に陥るケースが増加した。最低賃金の大幅な引き上げだけが経営難の原因ではないかもしれないが、概して大幅な賃上げには限界がある。

税制面での優遇措置などを使いながら、経営側に負担にならない政策が課題になるだろう。

――朴教授はどのような雇用対策が必要だと考えるか?
まず、中小・中堅企業に若者の就業するような支援制度を強化する取り組みが必要だと考える。

もっとも、現行でもそうした支援制度はある。例えば、中小・中堅企業に就職した若者には、2年間で300万ウォン(約30万円)を貯蓄すれば、政府が900万ウォン(約90万円)、さらに企業が400万ウォン(約40万円)を支援する制度がある。理論的には、2年間で1600万ウォン(約160万円)の財産が得られる。

――非常に手厚い支援に見える。
数字だけを見ればそうだ。ただ、そもそもこの制度を知らない人が少なくない。さらに、今の若者は目先の貯蓄よりも安定した雇用先を求める傾向が強いため、こうした支援が必ずしも満足のいく効果を上げていない。そのため、支援制度の広報の強化などの工夫が必要であろう。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ政権、予算教書を公表 国防以外で1630億

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、堅調な雇用統計受け下げ幅縮

ワールド

トランプ氏誕生日に軍事パレード、6月14日 陸軍2

ワールド

トランプ氏、ハーバード大の免税資格剥奪を再表明 民
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単に作れる...カギを握る「2時間」の使い方
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 6
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    なぜ運動で寿命が延びるのか?...ホルミシスと「タン…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 9
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 10
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中