最新記事

シリア

エルドアンに「言いくるめられた」トランプ、米軍シリア撤退ならISが甦る

Trump Accused of Betraying Kurds and Giving ISIS New Life in Syria

2019年10月8日(火)15時08分
タレク・ハダド

トランプはやはり強権的指導者に弱かった(昨年7月、NATO本部でトルコのエルドアン大統領と)

<イスラム国掃討作戦で成果を上げたクルド人とクルド人の土地を見捨てるだけでなく、地域でのアメリカの影響力を著しく損なう決定に米軍事関係者はカンカン>

10月7日、内戦が続くシリアの北部に駐留していた米軍が突然の撤収を開始した。決定を下したドナルド・トランプ米大統領に対し、流血の惨事と地域の不安定化を招くものだと、専門家や軍事関係者の間からは非難と怒りの声が上がっている。

前日の6日、トランプはトルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領と電話で会談。同日夜にホワイトハウスが発表した記者声明によれば、トランプはこの会談中に「トルコが計画しているシリア北部での作戦」について、アメリカは関知しないという意向を伝えた。トルコと国境を接するシリア北部では長年、アメリカと同盟を組むクルド人武装組織がIS(自称イスラム国)と戦ってきた。そのクルド人を事実上見捨てることになる。

トルコは国境地帯のクルド人をテロ組織と見なしており、国境のシリア側に「安全地帯」を設けてクルド人を撤退させようとしてきた。アメリカは8月、トルコとクルド人が参加してアンカラで行われた和平協議で、安全地帯の設置に合意。だがクルド人への軍事的・経済的な支援は継続してトルコから守ると約束していた。7日のホワイトハウスの発表は、その約束とは真逆の内容だ。


トランプに裏切られ、怒るクルド人

「衝動的な決定」と非難の声

ホワイトハウスは6日の声明で「トルコは近いうちに、シリア北部での計画を実行する」と述べた。「米軍は作戦の支援も、作戦への関与も行わない。すでにISは壊滅し、近接地域にとどまることもない」

かつてIS掃討を目指す有志連合の米特使を務め、トランプの「衝動的な」意思決定に抗議して昨年12月に辞任したブレッド・マガークは、この発表にすぐに反応した。

「トランプ大統領には、自分がシリアに派遣したアメリカ兵たちのために戦う気はあるのか。それとも、米軍撤収の言い訳を探しているだけか?」と、彼はツイッターに投稿した。「トルコがシリア北部を攻撃すれば米軍は危険に陥り、クルド人勢力はばらばらになり、ISが勢いを増すことになるのは明らかだ」

「ドナルド・トランプに最高司令官の資格はない。彼は一切の知識も熟慮もないまま、衝動的に決定を下している。何の支援もなく米軍を危険な場所に送り込み、都合が悪くなれば同盟相手を平気で危険にさらす」

<参考記事> >国際社会が使い捨てたクルド人と英雄バルザニ
<参考記事>クルド女性戦闘員「遺体侮辱」映像の衝撃──「殉教者」がクルド人とシリアにもたらすもの

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

英シュローダー、第1四半期は98億ドル流出 中国合

ビジネス

見通し実現なら利上げ、米関税次第でシナリオは変化=

ビジネス

インタビュー:高付加価値なら米関税を克服可能、農水

ビジネス

日銀、政策金利を現状維持:識者はこうみる
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 10
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中