最新記事

教育

日本の中学生の大学院志望率は、たったの3%

2019年10月10日(木)12時00分
舞田敏彦(教育社会学者)

これは全生徒の進学志望率で、学力の高い生徒に限れば数値は高い可能性もある。「TIMSS 2015」では数学と理科の学力テストを実施しているが、数学の得点が625点を超える生徒を取り出し、大学院進学志望率を計算してみた。横軸に全生徒、縦軸に数学の高得点層の志望率をとった座標上に、調査対象の国を配置すると<図2>のようになる。

data191010-chart02.jpg

学力が高い生徒の志望率が高いので、どの国も斜線の均等線より上に位置している。アメリカの高学力層の大学院進学志望率は65%、イランでは90%にもなる。学力が高い生徒は、ためらいなく大学院への進学を希望するようだ。

日本は原点付近に位置している。全生徒は3%、高学力層でも6%で大して変わらない。数学ができる生徒に限っても、大学院進学志望率は低い。外国から見ると、驚きを禁じ得ないだろう。

大学院の性格が違うと言えばそれまでだ。日本の大学院は、研究者養成機関としての性格が強い。高度職業人の養成も期待されてはいるものの、企業内訓練・年齢主義の慣行により、大学院修了者は民間では歓迎されない。才能ある若者が、長く教育を受けるのが難しい社会だ。

こういう慣行も変わっていくだろうが、能力ある生徒の将来展望に蓋がされるのはもったいない。大学、とりわけ入試難易度の高い大学が天井で、その先にある学びの機会(場)に思いを馳せることができない。学校系統図を見ると、大学の上には大学院があるし、大学の横には省庁所管の大学校(学費無償)等もある。才能を開花させる専門教育を受けられる場は数多い。

日本の中等後教育の構造は複雑だ。進路指導にあたる教師は、その全体図を把握し、生徒に最適な情報を提供する必要がある。

<資料:IEA「TIMSS 2015」

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

日本との関税協議「率直かつ建設的」、米財務省が声明

ワールド

アングル:留学生に広がる不安、ビザ取り消しに直面す

ワールド

トランプ政権、予算教書を公表 国防以外で1630億

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、堅調な雇用統計受け下げ幅縮
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単に作れる...カギを握る「2時間」の使い方
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 6
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 7
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 10
    なぜ運動で寿命が延びるのか?...ホルミシスと「タン…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 10
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中