最新記事

東南アジア

インドネシア、第2期ジョコウィ政権発足 政党力学で妥協の人事は前途多難

2019年10月23日(水)19時00分
大塚智彦(PanAsiaNews)

随所に政党への配慮が垣間みえる人選

ジョコ・ウィドド大統領は8月に開かれたPDIPの党大会で党首のメガワティ・スカルノプトリ元大統領から「総選挙で最大議席を獲得したのだから閣僚の数もPDIPは最大数であるべきだ」と釘を刺され、「最大数になる」としていた「約束」も最大数の5人をPDIPから選んだことで果たした形となった。

さらに経済専門家で日本大使からエネルギー鉱物資源相に抜擢されたアリフィン・タスラム氏はメガワティ元大統領とは旧知の仲。同氏起用にも元大統領の推薦があったものとみられ、依然として元大統領の政界への強い指導力、影響力が改めて印象付けられた人選ともいえる。

与党入りの情報が飛び交っていた民主党も党首のユドヨノ元大統領はメガワティ元大統領とは犬猿の仲であったことは有名で、和解したとみられていたが、まだ完全には関係修復ができていなかったことが入閣ゼロになったとみられている。

最大の焦点だったプラボウォ氏の入閣にはナスデムのスリヤ・パロ党首が強い反対を示していたとされるが閣僚ポスト3つで「手を打った」との観測も出ている。

難問山積のジョコ・ウィドド政権

ジョコ・ウィドド大統領は新たな顔ぶれの内閣で直面する数々の諸問題に解決の道筋をつけることが待ったなしで求められている。

パプア地方の騒乱状態への対応、中東などから流入するテロ組織メンバーや地元テロ組織などとのテロとの戦い。さらに再び状況が厳しくなり、マレーシアやシンガポールに多大な影響を与えているスマトラ島などの森林火災による煙害への対応。ジョコ・ウィドド大統領が1期目で推進してきた港湾、空港、高速道路、鉄道網などのインフラ整備の目標達成、そして突然大統領が言いだした「首都移転問題」など、やるべき問題は山積している。

10月20日の大統領就任式での就任演説で「インドネシアは2045年までに世界経済5大国入りを目指す」と高らかに宣言した。その一方で国内に残る数々の人権侵害事件への言及が皆無だったことから人権団体や民主化組織、学生団体などが反発する事態になっている。

1998年の民主化実現の前後や、1999年の東ティモールのインドネシアからの独立を問う住民投票前後に多発した人権侵害事件のほとんどが未解決であり、さらに独立運動が続いたアチェ州や現在も独立運動が続くパプア地方でも人権侵害は続いている。

こうした人権問題への真摯な取り組みも2期目のジョコ・ウィドド大統領には求められているが、人権問題への関与疑惑が残るプラボウォ氏の国防相就任で人権問題への対応がどこまで進められるか、その指導力が問われることにもなりそうだ。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など




20191029issue_cover200.jpg
※10月23日発売号は「躍進のラグビー」特集。世界が称賛した日本の大躍進が証明する、遅れてきた人気スポーツの歴史的転換点。グローバル化を迎えたラグビーの未来と課題、そして日本の快進撃の陰の立役者は――。


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ADP民間雇用、8月は5.4万人増 予想下回る

ビジネス

米の雇用主提供医療保険料、来年6─7%上昇か=マー

ワールド

ウクライナ支援の有志国会合開催、安全の保証を協議

ワールド

中朝首脳が会談、戦略的な意思疎通を強化
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...地球への衝突確率は? 監視と対策は十分か?
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害…
  • 5
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 6
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「農産物の輸出額」が多い「…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 5
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中