最新記事

移民

米移民当局はメキシコの麻薬カルテルに難民申請者を引き渡している?

Man Denied US Entry by Trump Administration Kidnapped 5 Hours After Return

2019年9月17日(火)15時04分
ベンジャミン・フィアナウ

メキシコからアメリカに渡り収容施設に入れられた不法移民の父子(テキサス州エルパソ) Lucas Jackson-REUTERS

<トランプ政権の移民政策が、合法的な移住を阻止し、難民申請のプロセスそのものを損なっている、と支援団体は批判する>

アメリカに難民申請を行った後にメキシコに送還された男性とその子どもが、わずか数時間後にメキシコのカルテル(麻薬組織)に誘拐された。この男性は、ドナルド・トランプ政権の移民政策の下、難民申請の認定が下りるまで移民をメキシコで待機させる「移民保護手続き」によってメキシコに送り返された。

7月半ば以降、この待機措置によって4万2000人の難民申請者がメキシコに送還されている。身代金を払って解放された男性は、ニュースサイトのバイスに対し、腐敗したメキシコの入国管理官と冷酷な米国境警備局の職員たちが、移民をカルテルに引き渡していると語った。

バイスの報道によれば、デービッド(仮名)親子はメキシコに送り返されたわずか数時間後、国境からわずか数キロの地点でトラックに押し込まれて誘拐された。送還後は裁判所での聴聞を待つ間、シェルター(保護施設)に滞在できると言われていたのに、2人を待ち構えていたのはカルテルのコヨーテ(人身売買業者)たちだった。

トランプ政権の「移民保護手続き」の下では、難民申請の審査を待つ移民たちはメキシコに送り返される。メキシコの全国人権委員会によれば、その待機中にカルテルに狙われて誘拐されることが多いという。

「シェルターに連れて行くと言われたのに」

デービッドは、メキシコ北部ヌエボラレドのカルテルが女性や子どもたちを誘拐し、最低賃金で働く貧しい親族から何千ドルもの身代金を巻き上げていると語った。

誘拐されるわずか数時間前、デービッドは米国境警備局の職員たちから「シェルターに連れて行くと言われた」とバイスに語った。「彼らは嘘をついた」

ドランプ政権の指示の下、メキシコ政府は難民申請者たちに2つの選択肢を提示する。無料バスでメキシコ南部のグアテマラとの国境地帯の町タパチュラ(米国境から約30時間)に行くか、メキシコで最も危険な地域のひとつである北部ヌエボラレドにとどまるか。ヌエボラレドは、身代金目的の誘拐が多発していることで知られる。

「移民当局の職員たちが、僕らをカルテルに引き渡した」とデービッドは語った。「僕らが殺されても構わないんだ」

人権団体ヒューマンライツ・ファーストのエレノア・エーサー難民保護担当専務理事は、「米国土安全保障省が実質的に、移民や難民を誘拐犯などに引き渡しているのは明らかだ」と指摘する。メキシコの国境地域では「警察に助けを求めても無駄だ」と彼女は言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドル一時急落、154円後半まで約2円 介入警戒の売

ワールド

中国主席「中米はパートナーであるべき」、米国務長官

ビジネス

円安、物価上昇通じて賃金に波及するリスクに警戒感=

ビジネス

ユーロ圏銀行融資、3月も低調 家計向けは10年ぶり
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 8

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中