最新記事

米外交

ボルトン解任はトランプにしては賢明だった

Trump makes a smart decision, for once

2019年9月11日(水)18時51分
フレッド・カプラン(スレート誌コラムニスト)

一時はトランプの右腕だったボルトン(2018年4月)Carlos Barria- REUTERS

<トランプは軍事パレードや好戦的なツイートが好きな割に戦争は望んでいない。おかげで史上最悪の国家安全保障担当補佐官をクビにすることができた。ボルトンはもう戻ってこないだろう>

やった!ジョン・ボルトンは去った!

ドナルド・トランプ大統領もたまには賢明な決定を下すものだ。9月10日、彼はジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)を解任したことをツイートで発表した。「ボルトンの提案の多くに私は反対だった。政権の他のメンバーも反対だった」――トランプのツイートのなかで有数の傑作だ。

それでも、多くの疑問が残る。そもそもトランプはなぜボルトンを起用したのか。ボルトンの意見ははっきりわかっていたはずだ。コメンテーターとしてFOXニュースに出演していたときボルトンは、北朝鮮に対する先制攻撃を求め、イランの宗教指導者を追い出し、アメリカが署名したすべての国際条約を廃止しろと唱えていた。トランプはそれをすべて知っていた。だから18カ月前にボルトンが国家安全保障担当補佐官に指名されたとき、私はコラムのリードで「今こそ非常ボタンを押す時だ」と書いたのだ。

<参考記事>あのネオコン、ボルトン復活に恐怖せよ

ボルトンは、イラン核合意からの離脱とロシアとのINF条約の廃止をトランプに促すという点で、重大な(負の)役割を果たした。しかしトランプは、派手な軍事パレードや巨額の国防予算や好戦的なツイートをこよなく愛する割に、戦争そのものはそれほど望んでいない(だからといって戦争に巻き込まれない方法を知っているわけでもないが)。

だから、国務次官や国連大使を務めていたころでさえ、常に自分の意見を声高に披露していたボルトンが、国家安全保障担当という要職にふさわしい人物でないことは明らかだった。

モンゴル派遣は左遷の象徴

となると、その仕事には誰が適任だろうか?トランプは世界で何を、どのようにやりたいのか?トランプにはそれがわからない――こうした疑問を深く考えたことがないことは明らかだ。トランプが自分は何をやりたいのか認識するのは、自分が任命した人物にうんざりしたときだ。それが、短期間に多くの閣僚を任命しては解任してきた理由のひとつだ。

ボルトンは7月上旬にモンゴルに派遣されたが、そのころから解任は時間の問題とみられていた。同じ時期、トランプは長女イバンカを含むチームを率いてG20サミット出席のために日本に飛び、韓国と北朝鮮を隔てる軍事境界線沿いの非武装地帯(DMZ)で金正恩朝鮮労働党委員長と板門店で米朝首脳会談を行っていたのだから。

<参考記事>米朝会談決裂の下手人は「壊し屋」ボルトンか

旧ソ連のニキータ・フルシチョフ首相は1957年以来、ロシア政府からスターリン主義者の残党を排除する作戦の一環として、スターリンの片腕だったビャチェスラフ・モロトフを駐モンゴル大使に左遷した。政敵や扱いにくい部下をモンゴルに送ることは、政治生命を奪うことを意味していた。

ボルトン解任の兆候が誰の目にも明らかに他のなったのは8月末、タリバンとの和平交渉についてホワイトハウスで協議したときのことだ。

ボルトンは、タリバンとの交渉にあたっているアフガニスタン和平担当特別代表ザルメイ・ハリルザドに、タリバンとの和平合意草案のコピーを渡すよう求めたが、ハリルザドはこれを拒否。和平そのものに反対していたボルトンに、コピーを渡すことはできないと言った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECBが金利据え置き、4会合連続 インフレ見通し一

ビジネス

英中銀、5対4の僅差で0.25%利下げ決定 今後の

ワールド

IS、豪銃乱射事件「誇りの源」と投稿 犯行声明は出

ビジネス

ECB、成長率とインフレ率見通し一部上方修正=スタ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末路が発覚...プーチンは保護したのにこの仕打ち
  • 2
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 6
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 7
    円安と円高、日本経済に有利なのはどっち?
  • 8
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 9
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 10
    欧米諸国とは全く様相が異なる、日本・韓国の男女別…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中