最新記事

日本社会

規制改革の大本命「スーパーシティ構想」で、日本の遅れを取り戻せ

2019年9月6日(金)18時50分
清水 仁志(ニッセイ基礎研究所)

なぜ今、スーパーシティ構想を進めなければならないのか

潜在成長率上昇に向けて

アベノミクスは、金融政策、財政政策、成長戦略という3本の矢から始まった。当初から、構造改革や規制緩和などを通じた成長戦略は、金融政策や財政政策に比べて時間がかかるとの見方があった。事実、アベノミクスがスタートして6年余りが過ぎた今も潜在成長率の向上は道半ばである。アベノミクス開始後の潜在成長率の内訳を見ると、全要素生産性(TFP)が大きく低下している。これを女性や高齢者の労働参加を中心とする労働投入が下支えしているものの、これら労働参加にも限りがあることからこの構図は長続きしそうにない。金融・財政政策の余地が限られる中、本命の規制緩和による生産性向上が急務になっている3。

取り残される日本の未来都市計画と技術革新

世界を見渡せば、既にAIやビッグデータなどの最先端技術を活用した都市プロジェクトが進んでいる。例えば、中国の杭州では、アリババが主体となり、道路のライブカメラをAIで分析することにより、警察への自動通報、信号機の切り替え、渋滞要因の分析などを行っている。カナダのトロントでは、GAFAの一角をなすグーグルが、あらゆる動きをセンサーで把握し、ビッグデータ解析を進めようとしている。

日本はそうした世界の先端都市計画から遅れを取っている。都市の競争力が相対的に落ちれば、外国企業の誘致は難しくなり、さらには日本企業の流出にも繋がる。

また、国家資本主義、開発独裁と言われる中国では、領域横断的な未来都市計画を強権的に推進している。

こうした世界のスピードに日本がついていき、日本発の技術革新を引き起こすためには、現行の特定領域の規制緩和だけでなく、包括的に、かつ迅速に動けるスーパーシティ構想を積極的に進めることが必要不可決だ。そうでなければ、第四次産業革命で訪れる技術社会から、日本は取り残されてしまうだろう。

今後の課題~合意形成と、実行スピード

スーパーシティ構想は、日本の成長戦略上、非常に重要な役割を果たすと考えられるが、実現までの道のりは険しい。

スーパーシティ構想は住民合意が前提だ。住民は最先端技術を活用した便利な生活というベネフィットを得る代わりに、自分が住む地域を未来都市社会実現に向けた実験場とすること、行動データなどの情報が取得されることなどを認めなければならない。グーグルが進めるトロントでの都市計画では、そうした個人情報提供への懸念から、住民による反対運動が起こり、計画は思うように進んでいない。

――――――――
3 矢嶋康次・鈴木智也『6月閣議決定に向けて議論が加速する「骨太の方針」「成長戦略」』(ニッセイ基礎研究所、研究員の眼、2019年6月5日)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:闇に隠れるパイロットの精神疾患、操縦免許剥奪

ビジネス

ソフトバンクG、米デジタルインフラ投資企業「デジタ

ビジネス

ネットフリックスのワーナー買収、ハリウッドの労組が

ワールド

米、B型肝炎ワクチンの出生時接種推奨を撤回 ケネデ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 5
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 6
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 7
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 8
    三船敏郎から岡田准一へ――「デスゲーム」にまで宿る…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 9
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中