最新記事

アマゾン火災

アマゾン火災 熱帯雨林が燃えても「酸素は大丈夫」

How Much Oxygen Does the Amazon Rain Forest Provide?

2019年8月29日(木)16時35分
アリストス・ジョージャウ

先住民が暮らすブラジル・モトグロッソ州の森林火災(8月25日) Marizilda Cruppe/Amnesty International/REUTERS

<主流メディアやセレブが地球全体の20%の酸素供給源が危ない、と叫んでいるが、問題はそこではない>

このところ広く注目を集めているアマゾンの森林火災。世界最大の熱帯雨林アマゾンのおよそ60%があるブラジルで、今年は森林火災が異常に多く発生しているとの報道に危機感が高まっている。

こうしたなか、多くのメディアや慈善団体、寄付を申し出るセレブ、さらにはG7に集まった各国の首脳までが、繰り返し主張している数字がある。アマゾンの森林が地球の酸素供給量の20%を占める、というものだ。アマゾンが燃え尽きれば、地球は酸素不足になる、というニュアンスで使われる。

本当なのか。

専門家によれば、実際の数字ははるかに低い。地球の酸素量におよぼすアマゾンの影響を考えれば、酸素不足の危機をあおるのはミスリーディングだ。

「ソーシャルメディアでは20%という数字が一人歩きしているが、あまり意味がない数字だ」と、アリゾナ大学のスコット・サレスカ准教授は本誌に語った。「森林火災を恐れるべき理由はいくつもある。だが世界の酸素供給へのリスクは、それに含まれない」

1万年も前からアマゾンに暮らしてきた先住民ヤノマミ族の集落にも火の手が迫っている


実際、ブラジルの国立アマゾン研究所のフィリップ・ファーンサイド教授によると、地球の酸素量は非常に安定しており、アマゾンのジャングル頼みではない。森林は酸素を生産すると共に消費もするので、長期的に見ればプラスマイナス・ゼロになるという。

<参考記事>アマゾンのジャングルに1人暮らす文明と接触のない部族の映像を初公開

「主流のメディアが、世界の酸素の20%はアマゾンの森林でつくられると報道しているのを見て驚いた」と、ファーンサイドは本誌に語った。「アマゾンは酸素の主要な供給源ではない。木も動物と同じように呼吸するからだ。木は生み出す酸素の大半を消費する」

大気中の酸素量は安定している

植物の光合成では、太陽エネルギーを使って空気中のCO2(二酸化炭素)から糖類が合成され、その副産物として酸素が生まれる。

「木が成長していて、幹などに炭素を蓄えている時期には、一定量の酸素が放出される。だが木が枯れ、幹が腐れば、それと同量の酸素が、幹に含まれる炭素と結びついてCO2になる」と、ファーンサイドは説明する。

「酸素供給量のほうが多くなるのは、光合成で蓄えられた炭素が、酸素と結びついてCO2にならないような環境に枯れ木が埋まった場合だけだ。地球全体で見ると、こういうことが起きる主要な場所は海底だ。海では、死んだ有機物の一部が底に沈み、堆積層に埋もれる」

結局、アマゾンが地球の大気に放出するネットの酸素量は「ほぼゼロ」になると、サレスカは言う。木々を成長させる光合成の効果は、微生物による枯れ木や落ち葉の分解でほとんど相殺されるからだ。

「大気中の酸素の割合は20.95%で、おおむね一定している」と、サレスカは話す。「アマゾンの木々が燃えても、大気中の酸素量には大した影響はない。CO2については、話は別だが」

<参考記事>燃えるアマゾン、融けるグリーンランド 2人のデタラメ大統領が地球を破壊する

サレスカによると、大気中の酸素量は1990年以降、0.005%低下しただけで、ほぼ問題にならない。

「(0.005%の低下は」科学的には検出可能で、非常に興味深い、有用な数値だが、現実生活では無視していい。低下の原因は(おもに)化石燃料を燃やしたことだが、そのほぼ10%が世界中の森林伐採に伴い枝葉が燃やされていることによる。多めに見積もった割合だ。もしアマゾンの森林破壊が世界の森林破壊の半分を占めると仮定すれば、アマゾンの森林破壊によって減る酸素減少量は全体の0.005%のうちのさらに5%ということになる」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請、3.3万件減の23.1万件 予

ビジネス

英中銀が金利据え置き、量的引き締めペース縮小 長期

ワールド

台湾中銀、政策金利据え置き 成長予想引き上げも関税

ワールド

UAE、イスラエルがヨルダン川西岸併合なら外交関係
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中