最新記事

欧州

イタリア、コンテ首相辞表提出で再び政治危機 連立と選挙の想定シナリオは

2019年8月23日(金)08時28分

イタリアのコンテ首相は、サルビーニ副首相兼内相が国益よりも自身が率いる極右政党「同盟」の党利党略を優先していると批判し辞表を提出した。写真はローマで政治危機を伝える新聞を読む女性(2019年 ロイター/Yara Nardi)

イタリアのコンテ首相は、サルビーニ副首相兼内相が国益よりも自身が率いる極右政党「同盟」の党利党略を優先していると批判し、20日に辞表を提出した。

これによって生まれた政治危機をいかに収拾するかは、マッタレッラ大統領の手に委ねられる。以下は現在の状況と今後想定されるいくつかのシナリオだ。

◎政権は崩壊したか

完全に崩壊したわけではない。マッタレッラ氏はコンテ氏に対して、事態が決着するまで暫定的に政権を運営するよう命じた。この間、コンテ氏は、イタリアが選出する新しい欧州委員を指名するかもしれない。

サルビーニ氏は20日、同盟の閣僚を引き揚げていないと述べ、減税を盛り込んだ来年の予算を成立させるために政権を維持する構えだと付け加えた。ただ憲法の専門家によると、予算承認は暫定政権の権限外なので、サルビーニ氏の思惑が現実化する公算は乏しい。

コンテ氏がサルビーニ氏を議会で批判したことから、現在の連立政権は恐らく瓦解したのだろう。しかし理論上は、マッタレッラ氏がコンテ氏を再び議会に送り、同盟との関係修復を図ろうとする可能性は残っている。

◎イタリアは早期選挙に向かうか

議会解散権を持つマッタレッラ氏は、新たな連立政権の樹立が不可能だと考えた場合のみ、約3年半前倒しする形で総選挙を公示するだろう。もちろん決定前には、上下両院の議長や主要政党の首脳と協議するとみられる。昨年実施された総選挙後には、連立政権の発足まで延々と協議が続けられた。マッタレッラ氏は、今回はそうした話し合いが長引くのを認めないとの姿勢を明確にしている。

◎次の連立政権はどのような形になるか

最も現実味がありそうなのは、現在同盟と連立を組む新興政治勢力の「五つ星運動」が、中道左派の野党である民主党(PD)を相手に選ぶことだ。両党は既に暫定的な協議を開始、PDはジンガレッティ党首に新政権樹立に取り組む権限を付与すると予想される。

五つ星運動とPDが連立に合意しても、上院では合計しても半数を1議席しか上回れず、中小勢力や終身議員の支援が必要になる。小規模な左派政党の自由と平等(LEU)は、既に協力の意向を示している。

もっとも、両党が手を結ぶための道のりは険しいだろう。これまでずっといがみ合ってきたし、政策面でも多くの違いがあるからだ。さらにジンガレッティ氏の党内における指導力は、なお多くの議員を影響下に置くレンツィ元首相にとって弱められており、こうした状況が5つ星運動との協議をより難しくする恐れがある。

五つ星運動とPDの交渉が不調に終わった場合、マッタレッラ氏は実務者内閣を議会の幅広い勢力が支えることを求め、来年予算を成立させた上で、来年春に選挙を実施しようとしてもおかしくない。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

「オートペン」使用のバイデン氏大統領令、全て無効に

ビジネス

NY外為市場=ドル、週間で7月以来最大下落 利下げ

ワールド

エアバス、A320系6000機のソフト改修指示 航

ワールド

米国務長官、NATO会議欠席か ウ和平交渉重大局面
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場の全貌を米企業が「宇宙から」明らかに
  • 4
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 5
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 6
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 7
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 8
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 9
    エプスタイン事件をどうしても隠蔽したいトランプを…
  • 10
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 7
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中