最新記事

米中貿易戦争

第4弾対中関税制裁と為替操作国認定に対する中国の反応

2019年8月8日(木)16時20分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

中国の「新京報」は金融リスク管理関係の専門家・陳思進氏の分析を掲載しているが、陳氏は2ヵ月ほど前にも人民元は1ドル「6.5~7.5元」の間を動くだろうと予測していたとのこと。米中貿易摩擦の先行きがこれだけ不透明な中、変動幅10%程度で7.0になるのは全く正常な市場の変動内だと分析している。

中国問題グローバル研究所の研究員・孫啓明教授の意見

シンクタンク「中国問題グローバル研究所」の研究員の一人である北京郵電大学の孫啓明教授は、以下のように語った。

1.中国に対して「為替操作国」のレッテルを貼るということは、米財務省が自ら規定している「為替操作国」の条件を満たしておらず、アメリカの一国主義あるいは保護主義に基づく我が儘を表している。これは国際的な規則を破壊するだけでなく、全世界の金融経済に対して重大な影響をもたらすだろう。

2.中国は市場のニーズを基本にして通貨バスケットを参考にしながら調整し、管理フロート制(管理変動相場制)を実施している。「為替操作」ということは存在しない(筆者注:「為替操作」ということは存在しないということに関して、筆者が納得するか否かは別問題だ。ただ、孫教授はそのように言っているということを、ここに記すのみだ)。

3.米財務省は為替操作国として認定する基準を自ら設定している。2016年2月、米財務省は以下の3つの条件を全て満たした国を為替操作国と認定すると決めている。


第1:対米貿易黒字(財のみ、サービスを含まない)が200億ドル以上。

第2:経常収支黒字の対GDP比が3%以上。

第3:外国為替市場での持続的かつ一方的な介入が繰り返し実施され、過去12ヵ月間の介入総額がGDPの2%以上。

以上の3つだ。もし、ある経済体(国家)が上記3つの条件を全て満たしているなら「為替操作国」と認定し、2つの条件を満たしているなら「為替操作観察国」のリストに入れる。もし1つだけしか当てはまらない場合は、観察国に入れる場合もあるが、そうでない場合もある。このように米財務省は決めている。

この基準に従えば、中国は第1の条件だけは確かに満たしている。なぜなら貿易黒字が3233億ドルだからだ。200億を優に超えている。しかし、第2の条件に関しては、2018年の中国の経常収支黒字の対GDP比は0.37%なので、当てはまらない。また第3の条件に関しては、2016年下半期から今日に至るまで中国の外貨準備高は3兆ドル前後を安定的に保っているので、これも当てはまらない。したがって米財務省は自分が決めたルールに違反したことをやっているのである。

4.そもそも今年5月末の米財務省の報告書の中では、中国は「為替操作国」には入っていない。「中国、ドイツ、アイルランド、イタリア、日本、マレーシア、シンガポール、韓国、ベトナム」の8ヵ国が平等に「為替操作観察国」の中に入れられていただけだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

独製造業PMI、4月改定48.4 22年8月以来の

ビジネス

仏ラクタリスのフォンテラ資産買収計画、豪州が非公式

ワールド

ウクライナ南部ザポリージャで29人負傷、ロシア軍が

ビジネス

シェル、第1四半期は28%減益 予想は上回る
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 8
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 9
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中