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コロンビア大学特別講義

9.11を経験したミレニアル世代の僕が原爆投下を正当化してきた理由

2019年8月15日(木)17時10分
スペンサー・コーヘン ※現代ビジネスより転載

原爆のおかげで助かった

ブルックリンで育った白人のユダヤ人である祖父は、太平洋戦線で戦う米軍のエンジニア部隊――すべて黒人だったという――を指揮していた。1945年には、祖父と祖父の部隊は太平洋に向かう船に乗せられた。それはおそらく沖縄だったのか、グアムだったのか、日本の本土上陸に備えるための場所に向かっていたものと思われる。

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軍服を着る祖父・ハロルド 写真提供/Courtesy Cohen Family

私は、おじいちゃん、戦闘を見たことあるの? と尋ねたりもした。テレビのヒストリー・チャンネルで第二次世界大戦におけるアメリカのヒーロー物語を伝えるドキュメンタリー を観て育った私は、祖父から武勇伝を聞きたくて仕方がなかった。

頭の上を弾丸が飛んでいったことがあったよ、と祖父は言った。だがそれは白人の上官に対して反乱が起きたときで、有難いことに実際の戦闘を見たことはない、私たちがアジアに到着する前に米軍が広島と長崎に原子爆弾を落としてくれたおかげでね、と祖父は続けた。

戦争の話となると避けては通れない原爆投下のくだりは、アメリカにとって4年におよぶ戦争を終結させてくれただけでなく、祖父にとっては命を救った出来事だった――少なくとも、祖父が私に語ったところによれば。

同世代の多くのアメリカ人のように、私も原爆投下は必要だったと信じて育った。敬愛していた祖父の命を救ったのだから、原爆投下は正しいという以外の何があるだろう? まだ子供だった私は、原爆がはるか60年も前に、太平洋の向こうの遠く離れた日本の都市に何をもたらしたのか、その犠牲者や被害を理解することができなかった。

しかし私は米コロンビア大学在学中に、祖父と私の記憶を問い直す経験をすることになる――。

アメリカで語られた「正義の物語」

2017年末から2018年春にかけて、コロンビア大のキャロル・グラック教授(歴史学)はニューズウィーク日本版の企画として、コロンビア大の学生たちと共に過去についての物語や理解を問い直すという、全4回の対話を行った。そこでグラック教授が行ったのは、私たち学生がもっている「記憶」を解体していくという作業だ。

私たちはその話をどこで聞いたのか、誰から教えられたのか、そして私たちはなぜある1つの物語を大切にし、一方でそれとは異なる物語を拒絶するのか――。家族にまつわる私の第二次大戦の記憶は、私がありのままに語りグラック教授が分析した、いくつもの記憶のうちの1つだった。

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