最新記事

香港デモ

香港は最後の砦――「世界二制度」への危機

2019年7月31日(水)19時07分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

香港「逃亡犯条例」改正に対して抗議デモを続ける若者たち Tyrone Siu-REUTERS

逃亡犯条例改正案をめぐって香港市民の抗議デモは激しさを増している。西側諸国の価値観と中共一党支配の思想がせめぎ合う香港は、一国二制度に留まらず「世界二制度」を防ぐ最後の砦だ。日本は黙っていていいのか。

香港史上、最大規模のデモ

1989年6月4日の天安門事件に抗議するデモには、最大で約150万人の香港市民が参加したと言われている。

その後大きかったのが、2003年の「香港基本法23条 国家安全保障条例」案に反対したデモで、参加者は50万人。それでも法案の撤廃にまで持っていった力は大きい。廃案だけでなく、その時の行政長官を辞任にまで追いやったことにより、香港市民の言論の自由を守る熱情は自信を増していった。

それは2011年に北京政府から要求された「愛国主義教育」に抗議する運動にも反映されて、翌年には無期延期に追い込んでいる。そのとき活躍したのは1996年生まれのジョシュア・ウォン(黄之鋒)だった。彼は「学民思潮」を結成して2011年6月27日に国会に相当する立法会で発言し、父母や教員まで動員するデモをリードしていった。当時まだ15歳。史上最年少のデモ統率者と言えよう。このときのデモ参加者は実はそれほど多くはない。それでも無期延期にまで追い込めたのは、高校生を含む学生や市民の自発的な行動だったからだ。

ところが普通選挙を求めて2014年に展開された「雨傘運動(雨傘革命、オキュパイ・セントラル)」の場合は、述べ120万人もの学生や市民が参加したというのに失敗に終わっている。この詳細は一冊の本にまとめて分析したが、思い出すのも心が痛む。

要は、外部勢力、アメリカの全米民主主義基金(NED)が入り込んでいたために、内部でベクトルが混濁し、求心力を失ってしまったのである。NEDは各国の民主化に貢献する役割を果たしているので悪いことではないが、香港の場合は事情が少し異なる。その議論は2015年3月30日のコラム「香港デモ、背後にAIIBの米中暗闘――占領中環と全米民主主義基金NED」でも述べているので、興味のある方は、そちらを覗いていただきたい

今回は背後にNEDの力も台湾独立派の力も働いていない。香港市民自らが、「自分もいつ疑いをかけられて拘束され、大陸に渡されるかしれない」という非常に現実的な恐怖感あるいは危機感に駆られて、自発的に参加している。だから強い。

主催者側の発表だが、最も多い時で200万人に達したという。香港史上、最大規模となっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:屋台販売で稼ぐ中国の高級ホテル、デフレ下

ワールド

メラニア夫人、プーチン氏に書簡 子ども連れ去りに言

ワールド

米ロ首脳、ウクライナ安全保証を協議と伊首相 NAT

ワールド

ウクライナ支援とロシアへの圧力継続、欧州首脳が共同
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に入る国はどこ?
  • 4
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 5
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 6
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 7
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 8
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 9
    「デカすぎる」「手のひらの半分以上...」新居で妊婦…
  • 10
    【クイズ】次のうち、「軍事力ランキング」で世界ト…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 7
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 8
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 9
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 10
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中