最新記事

トランプ

トランプの独裁者贔屓は要警戒レベル

Trump’s Dictator Envy Isn’t Funny Anymore

2019年7月1日(月)19時30分
フレッド・カプラン

外相や国防相といった高官でさえ、呼ばれたりしない限りは首脳同士の会話に首を突っ込むことは許されない。そんな基礎的な外交慣習もイバンカは知らなかったのだろう。だがそうした常識の欠如は驚くことではない。そもそも「自分はアメリカ政府の一員だ」という印象を与えてしまったのは父親なのだから。トランプ政権のホワイトハウスは、まさに家族経営だ。トランプ政権は専制主義的な政権と手を組もうとしているだけでなく、自身が専制的な政権に似てきている。

金委員長へラブコール

とどめの一撃が突然の米朝首脳会談だろう。トランプは6月30日、まず韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領を訪ね、その後本当の目的である北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長と南北軍事境界線の非武装地帯で顔を合わせ、握手をし、言葉を交わした。2人は韓国と北朝鮮を隔てる軍事境界線を越え、少し歩いた。こうしてトランプは現職で初めて北朝鮮に足を踏み入れたアメリカ大統領になった。

この会合はその段取りからして、赤面するようなものだった。会合の2日前、トランプはツイッターで金委員長に、韓国に行くついでに挨拶をしたいから、非武装地帯で会いたいと呼びかけたのだ。

この気恥ずかしいツイートで私が思い出したのは、ミュージカル『マイ・フェア・レディ』の有名な場面だ。主役のイライザに惚れている貴族の若者フレディ・アインスフォード=ヒルはストーカーのように、彼女の家の前までやってきて、会えるまでそこで待つ、と歌う。(「どの家の扉からも歓びはあふれているのか?いやいや、それは、君の住むこの通りだけ」)

そんな感じで、トランプは「彼」の元にやってきた。2人の仲の良さときたら、昨年6月にシンガポールで行った初の米朝会談の後、トランプが支持者集会で「私たちは恋に落ちてしまった」と語ったほどのものだ。握手をした後、抜け目のない金は、だまされやすい友人に、 国境を越えようと誘ったことだろう。そうすれば最初の北朝鮮に足を踏み入れる最初の米大統領になれる、と。

トランプと金が何を語り合ったかは、まだわからない。彼らが交渉を再開することに同意したなら、それは結構なことだ。

だが2人がいかに気安い関係にあろうと、北朝鮮がウランを濃縮し、弾道ミサイルを製造し続けていることを私たちは知っている。北朝鮮が「非核化」の計画を提示していないだけでなく、第一歩さえ踏み出していない。北朝鮮の主な戦略目標が、依然として韓国とアメリカの絆を断つことであることも、知っている。

だがトランプは、そんなことは一向に気にしない。その代わりトランプは、核合意に応じて核兵器開発を中止したイラン政府を罵り、イラン経済を壊滅させることに全力を尽くしている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロ産原油、割引幅1年ぶり水準 米制裁で印中の購入が

ビジネス

英アストラゼネカ、7─9月期の業績堅調 通期見通し

ワールド

トランプ関税、違憲判断なら一部原告に返還も=米通商

ビジネス

追加利下げに慎重、政府閉鎖で物価指標が欠如=米シカ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの前に現れた「強力すぎるライバル」にSNS爆笑
  • 4
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 7
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 8
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 9
    あなたは何歳?...医師が警告する「感情の老化」、簡…
  • 10
    約500年続く和菓子屋の虎屋がハーバード大でも注目..…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中