最新記事

BOOKS

質問・批判をかわす「安倍話法」には4パターンある、その研究

2019年7月12日(金)11時00分
印南敦史(作家、書評家)

「簡潔に申し上げます」どころか、まったく正反対である。「いよいよ結論を言うのか?」と期待させておいて、結局は意味のないことをダラダラ話し始めるのだから。

これを著者は、時間を使って相手を煙に巻く「ダラダラ話法」だと呼んでいるが、長い答弁で相手をうんざりさせるためには、なるほど効果的かもしれない。

「印象操作だ」「レッテル貼りだ」が視聴者に与える影響

そして「安倍話法を考える④」は、「『印象操作』は時間稼ぎのテクニック」である。

ご存じのとおり安倍首相は、国会で対立相手の野党や質問議員から森友・加計問題などを追及されると、「印象操作だ」「レッテル貼りだ」と興奮しながら批判を繰り返す傾向がある(そもそも、それは総理大臣にあるまじき態度なのだが)。しかし、こうした答弁そのものが、議員が質問した内容は「間違っている」という印象を植え付けようとしているのではないかと著者は言う。

首相のそんな発言をテレビで聞いた視聴者が、「ああ、○○議員の言っていることは、正しくないのだな」と思ってしまったとしても無理はないということだ。


 国際医療福祉大学の川上和久教授(政治心理学)は、「『印象操作だ』と言って正面から疑問に答えず、時間稼ぎをしながら野党を批判するという安倍首相のテクニックだ」(毎日新聞二〇一七年六月五日)と分析する。(139ページより)

相手が聞きたがっている核心部分について答えたくないから、議論や質問に無関係な答弁をしてはぐらかす。それが「安倍話法」のひとつだということだ。

なお、安倍首相が「印象操作」という言葉を多用し始めたのは、2017年2月のこと。森友学園問題をめぐる朝日新聞のスクープがあり、安倍首相や財務省の言葉の真偽に世間の注目が集まっていた時期だ。

この年、衆参両方の委員会で、安倍首相は計27回も「印象操作」という言葉を発しているのだという。よほど、それが自身を防御するために有効だと思ったのだろう。

著者もその点を突いているが、つまり安倍首相の答弁は、相手が知りたいことに誠実に答えようとするものではなく、「はぐらかすための答弁」だということだ。

◇ ◇ ◇

客観的な視点に基づいた緻密な分析がなされているため、本書にはとても読み応えがある。しかし、だからこそ読み終えると暗澹たる気持ちにならざるを得ない。言うまでもなく、その幼稚さに呆れるしかないからだ。


『「安倍晋三」大研究』
 望月衣塑子&特別取材班 著
 KKベストセラーズ

[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「WEBRONZA」「サライ.jp」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)をはじめ、ベストセラーとなった『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)など著作多数。

ニューズウィーク日本版 世界も「老害」戦争
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月25日号(11月18日発売)は「世界も『老害』戦争」特集。アメリカやヨーロッパでも若者が高齢者の「犠牲」に

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ドイツ銀、28年にROE13%超目標 中期経営計画

ビジネス

米建設支出、8月は前月比0.2%増 7月から予想外

ビジネス

カナダCPI、10月は前年比+2.2%に鈍化 ガソ

ワールド

EU、ウクライナ支援で3案提示 欧州委員長「組み合
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 7
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 8
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 9
    経営・管理ビザの値上げで、中国人の「日本夢」が消…
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中