最新記事

エベレスト

エベレストで死んだ登山家、「渋滞」の危険を警告していた

Mount Everest Traffic Jam: Robin Haynes Fisher Warned About Overcrowding Before Death

2019年5月28日(火)14時46分
スーマン・バランダニ

5月22日撮影、エベレストの頂上前で列を作るクライマー Nirmal Purja/PROJECT POSSIBLE

世界最高峰のエベレスト山では今季の登山シーズン、死亡者が相次いでいる。その一人、イギリス人登山家ロビン・ヘインズ・フィッシャーは、ソーシャルメディアへの生前最後の投稿で、山の混雑ぶりについて警鐘を鳴らしていた。フィッシャーは5月25日に山頂から下山中、標高約8600メートルの地点で死亡した。原因は高山病と思われる。

フィッシャーは5月19日付けでインスタグラムに投稿し、「混雑を避けて登頂したいと考えている。どうやら、多くの登山隊が21日に登頂を目指しているようだ」とコメントした。「頂上までのルートは1つしかないので、渋滞で遅れが出たら命を落としかねない。25日なら人が少ないのではないか。もちろん、みんなが同じように登頂を遅らせる作戦に出なければ、の話だが」

フィッシャーは投稿のなかで、直前に亡くなった2人の登山者に対して哀悼の意を示していた。2人は、「死のゾーン」と呼ばれる標高約8000メートル以上の危険区域で亡くなっていた。

フィッシャーは以下のように書いていた。「16日と17日の両日、およそ100人が登頂に成功したが、残念なことに2人が亡くなった。インド人登山者はキャンプ4(標高7900メートルにある登頂直前のキャンプ地)のテントで亡くなっているのが発見された。アイルランド人登山者は行方不明で、下山中に滑落したようだ」

ロビン・ヘインズ・フィッシャー


山頂付近の渋滞が死に直結

さらに、直前の1週間でガイドを含めて700人ほどが山頂を目指したとし、自分は人が減るのを期待して登頂を遅らせ、5月25日に頂上を目指すつもりだと述べた。

ネパールと中国のチベット自治区との国境にそびえるエベレスト山には、世界中から登山者が集まる。今季の登山シーズンは3月~5月までで、ネパール政府観光局によれば、5月19日現在の登山許可証発給数は381件だという。NBCニュースによると、同観光局ディレクターのミーラ・アチャラは、2018年シーズンの登頂者は合計560人だったと述べている。

山頂が渋滞すれば、登山者たちはエベレスト山の「死のゾーン」により長く留まることになる。死のゾーンの酸素濃度は海抜ゼロ地点の3分の1しかない。登山者が山頂にとどまる時間が長くなればなるほど、高山病のリスクも高くなる。

この投稿をInstagramで見る

Climbed up to camp 3, 7500m but the jet stream had returned closing the summit after only 2 days so I descended to basecamp. Around 100 climbers did summit in those 2 days with sadly 2 deaths, an Indian man found dead in his tent at camp 4 and an Irish climber lost, assumed fallen, on his descent. A go fund me page has been set up for a rescue bid for the Irish climber but it is a well meaning but futile gesture. Condolences to both their friends and families. Both deaths happened above 8000m in the so called death zone where the majority of deaths of foreign climbers happen. Around 700 more people will be looking to summit from Tuesday the 21st onwards. My revised plan, subject to weather that at the moment looks promising, is to return up the mountain leaving basecamp Tuesday the 21st 0230 and, all being well and a lot of luck, arriving on the summit the morning of Saturday the 25th. I will be climbing with my Sherpa, Jangbu who is third on the all time list with an incredible 19 summits. The other 4 members of our team decided to remain on the mountain and are looking to summit on the 21st. My cough had started to return at altitude so I couldn't wait with them at altitude for the window to open without the risk of physically deteriorating too much. Furthermore as I had missed due to sickness the earlier camp 3 rotation best practice was for me to descend to allow my body to recover from the new altitude high so I could come back stronger. This was not an easy decision as the 13 hours climbing from basecamp to camp 2 in a day was the hardest physical and mental challenge I had ever done, now I have it all to do again. Finally I am hopeful to avoid the crowds on summit day and it seems like a number of teams are pushing to summit on the 21st. With a single route to the summit delays caused by overcrowding could prove fatal so I am hopeful my decision to go for the 25th will mean fewer people. Unless of course everyone else plays the same waiting game. #everest #everest2019 #lhotseface

Robinさん(@1c0n0clast22)がシェアした投稿 -

エベレストの険しさ(ロビン・ヘインズ・フィッシャーのインスタより)


ネパール政府観光局はBBCへの声明のなかで、今季これまでの死者数は8人だとしているが、噂では、死者および行方不明者数は10人にのぼる。同観光局のダンドゥ・ラジ・ギミレ局長は登山者の死亡について、渋滞だけが原因ではなく、悪天候も関係していると述べた。過去の死亡者数を見ると、2018年は5人、2016年と2017年はともに6人。1シーズンに死亡者が10人に達したのは、直近だと2015年だ。

(翻訳:ガリレオ)

20190604cover-200.jpg
※6月4日号(5月28日発売)は「百田尚樹現象」特集。「モンスター」はなぜ愛され、なぜ憎まれるのか。『永遠の0』『海賊とよばれた男』『殉愛』『日本国紀』――。ツイッターで炎上を繰り返す「右派の星」であるベストセラー作家の素顔に、ノンフィクションライターの石戸 諭が迫る。百田尚樹・見城 徹(幻冬舎社長)両氏の独占インタビューも。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

三井物産、25年3月期の純利益は15.4%減の90

ワールド

韓国4月輸出は13.8%増、7カ月連続プラス 半導

ビジネス

午前の日経平均は反落、米株安を嫌気 個別物色は活発

ビジネス

中国新疆から撤退を、米労働省高官が企業に呼びかけ 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 5

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 6

    衆院3補選の結果が示す日本のデモクラシーの危機

  • 7

    なぜ女性の「ボディヘア」はいまだタブーなのか?...…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 10

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 7

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 8

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中