最新記事

サッカー

好調イングランド代表の裏にあるこれだけの課題

A Homegrown Talent Problem

2019年5月8日(水)17時00分
フランシスコ・ファルディラ、モリッツィオ・バレンティ

19歳のイングランド人選手サンチョは独ドルトムントで大活躍 Ralph Orlowski-REUTERS

<イングランド代表も外国でプレーする選手も大活躍だが、自国選手のリーグ出場が少ないという問題は未解決>

サッカーの「母国」イングランドの代表チームが、このところ近年にない熱い戦いを見せている。3月に行われた2020年欧州選手権(ユーロ2020)の予選2試合では、快勝を遂げた。チェコとモンテネグロを相手に、いずれも5ゴールを上げる見事な勝利だった。

これまでイングランドの選手は国外でプレーすることが少なかったが、最近は外国のクラブで活躍する若手選手も増えてきた。目下の筆頭格は、ドイツのドルトムントで目覚ましい活躍を見せるミッドフィールダーのジェイドン・サンチョ(19)だろう。イングランドの選手育成の努力は実りつつあるようにも見える。

しかしイングランドのプレミアリーグに、イングランドの選手が少ないという問題は解消されていない。

世界最高のリーグとも言われるプレミアリーグには、地球上の最高のサッカー選手が集う。テレビ放映権をはじめとして、巨額の金も流れ込んでくる。当然、クラブには金がある。そのため世界中から最高の才能を集めようとするので、自国出身の選手はどうしても出場機会が限られてしまう。

今シーズンのプレミアリーグ全選手の延べプレー時間のうち、イングランド人選手のプレー時間は35%。09〜10年シーズンの40%から、かなり減っている。

Bチームをもっとつくれ

イングランド代表のガレス・サウスゲート監督は、この問題への懸念を事あるごとに表明している。イングランドの有望な選手の多くが出場機会に恵まれないため、代表に招集する選手の枠が広がらないというのだ。

もっとも、これはイングランドだけの問題ではない。欧州主要リーグでプレーする外国人選手の割合は、09年の35%から18年には40%に増えている。

ただしイングランドは、外国人選手の割合が59%と他国に比べて高い。他の主要国の割合を挙げれば、イタリア54%、ドイツ49 %、スペイン39%、フランス36%という具合だ。

イングランドの有望な選手を育成するにはどうすればいいのだろう。イングランドと大陸ヨーロッパの大きな違いは、クラブのBチームが下部リーグで戦っていないことだ。イングランドでは一般的なU23のリーグなどとは違い、Bチームは若手により高いレベルの試合を経験させられる。スペインやドイツなどのクラブではBチームが活発なおかげで、力のある選手をトップチームに引き上げやすい。

Bチームの活用で最も成功しているのは、ポルトガルかもしれない。ユーロ2016で優勝したポルトガル代表23人のうち9人は、各クラブのBチームに所属していた。しかも、17年のU20ワールドカップで準々決勝まで進んだポルトガル代表21人のうち20人がBチームに所属していた。

世界のサッカーは、Bチームシステムを活用する方向に進んでいるようだ。イングランドも、その採用を真剣に考えるべきだろう。とりわけブレグジット(イギリスのEU離脱)が現実のものになれば、これまでは容易だった大陸ヨーロッパからの選手の移籍についても状況が変わってくる。

サウスゲートは、イングランドのサッカーの欠点はかなり改善されているとした上で、プレミアリーグでの自国選手の割合の低さは「パズルの欠けているピース」だと言う。

「マンチェスターシティーB」対「リバプールB」のように、強豪クラブのBチーム同士の対戦が下部リーグで毎週行われるようになれば、このパズルも完成するのかもしれない。

The Conversation

Francisco Fardilha, Doctoral Researcher and Associate Fellow, University of Stirling and Maurizio Valenti, Doctoral Researcher in Sport, University of Stirling

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

<本誌2019年04月23日号掲載>

ニューズウィーク日本版 高市早苗研究
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月4日/11日号(10月28日発売)は「高市早苗研究」特集。課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日産、今期は2750億円の営業赤字を予想 売上高は

ビジネス

デジタルユーロ、27年にも試験運用開始の可能性=E

ワールド

米大統領、対中関税10%下げ表明 レアアース輸出継

ビジネス

ユーロ圏GDP、第3四半期速報+0.2%で予想上回
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨の夜の急展開に涙
  • 4
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 5
    コレがなければ「進次郎が首相」?...高市早苗を総理…
  • 6
    【クイズ】開館が近づく「大エジプト博物館」...総工…
  • 7
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 10
    リチウムイオンバッテリー火災で国家クラウドが炎上─…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中