最新記事

EU

欧州議会選、EU懐疑主義躍進でもEU反対論は下火のなぜ?

2019年5月23日(木)16時00分
ダニエル・グロー(欧州政策研究センター所長)

イギリスでは離脱強硬派ナイジェル・ファラージュ率いる新党が人気 Hannah Mckay-REUTERS

<EU嫌いのポピュリスト政党に追い風の欧州議会選だが、難民対策や経済回復に成功したEUへの支持は高い>

EU懐疑主義を掲げる政党が躍進――5月23~26日に実施される欧州議会選挙は、そんな結果になりそうだ。

しかし、そうした結果が示すのはEU自体への反対ではない。そこに見えるのは欧州統合の現状に対して、当然ともいうべき反発が広がっている現実だ。

そもそもEU懐疑派政党は目新しい現象ではない。EUの前身であるEC(欧州共同体)時代の79年、加盟国が9カ国にすぎなかった頃に直接選挙で行われた初の欧州議会選でも、強い存在感を示していた。

ECは、加盟国28カ国のEUよりはるかに小規模だったばかりでなく、役割もずっと小さかった。母体であるEEC(欧州経済共同体)が目的としたのは関税同盟の設立、域外共通関税と域外共通貿易政策だけ。途中までは域内でも税関検査や入国審査が継続され、多くの加盟国では資本輸出が禁じられていた。

その後、欧州統合は飛躍的に深化した。ブレグジットをめぐって、イギリスがEU離脱後も関税同盟に残るという選択肢があるのがいい証拠だ。半世紀前なら、これは加盟国であることと同義と見なされたに違いない。

79年当時、ECに対して最も懐疑的なのは左派政党だった。統合の促進は労働者保護のために設けられた貿易障壁を緩和し、資本家を利することになると彼らは考えていた。

統合のスピードへの反発

もっとも、当時の左派が共同市場に反対したのはいわば時期尚早だった。加盟国間貿易は増加傾向にあったものの、国民所得に占める割合はごくわずか。

当時の加盟国のうち規模がより大きい国でも、輸出の対GDP比率は20%未満にすぎなかった(現在は50%に迫る)。

現代では、EU懐疑派政党が台頭すると同時に、世論調査が示すようにEU支持がかつてないレベルに高まっている。欧州に押し寄せた難民・移民への対処に成功したこと、欧州経済がしばらくぶりに上向き、失業率が今世紀に入って最低となったことが主な理由だ。その結果、フランスやイタリアの主要なEU懐疑派政党はユーロ圏脱退やEU離脱を主張しなくなった。

つまりEU懐疑派政党が勢いを見せているのは、EUの動き、あるいは欧州経済の現状への不満が広がっているからではない。そこに反映されているのは欧州統合のスピードに対する反発だ。

この10年間、欧州を見舞った数々の危機によってEUの権限は大きく拡大してきた。主権の大幅移譲とも受け止められる事態に、各国の政治家が反対しないほうがおかしい。

アメリカという例を思い出してみよう。長い統合プロセスの所産であるこの国では、州権の範囲や連邦政府の権限をめぐって議論が繰り返されてきた。FRBが設立されたのも、建国から1世紀以上過ぎた後のことだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国で「南京大虐殺」の追悼式典、習主席は出席せず

ワールド

トランプ氏、次期FRB議長にウォーシュ氏かハセット

ビジネス

アングル:トランプ関税が生んだ新潮流、中国企業がベ

ワールド

アングル:米国などからトップ研究者誘致へ、カナダが
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナの選択肢は「一つ」
  • 4
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 5
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 6
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 9
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 7
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中