最新記事

貿易戦争

米財務省、1カ月遅れで為替報告書公表 日本への指摘と新たなリスク

2019年5月30日(木)14時00分

日本は為替相殺関税と為替条項を警戒

報告書は日本に関しても、厳しい指摘を継続して載せている。前回と比べて大きな変化はないものの、2018年に680億ドルに達した財の対米貿易黒字を引き続き懸念するとした。

円相場について「実質実効ベースでは過去5年間にわたって歴史的な安値圏を安定的に推移している」との認識を改めて示した。また「介入は非常に例外的な状況において、適切な事前協議を伴った形でのみ留保される」と、再度くぎを刺した。

今回の報告書では、日本に関する記述に大きな変化はないものの、最近の米商務省の動きやトランプ大統領の発言を考え合わせると、新たなリスクが浮かび上がってくる。

米商務省が23日に発表した、自国通貨を割安にする国からの輸入品に相殺関税をかけるルール改正案は、日本や中国など6カ国が対象となる可能性がある。

自国通貨を割安にすることを輸出国側の補助金と見なして関税で対抗するが、割安か否かの判断は米財務省に委ねられる。具体的には、米財務省が円は20%過小評価されていると判断すれば、20%の為替相殺関税が賦課される可能性が高まる。

また、市場は、日米通商交渉に為替条項が導入されるかどうかを警戒している。

現在行われている日米通商協議では、トランプ政権が為替条項の導入を強く求めていることが推測できると、SMBC日興証券チーフマーケットストラテジスとの丸山義正氏は述べている。

ムニューシン米財務長官は競争的通貨切り下げにつながる為替介入などの政策を自制する取り決め(為替条項)を日米通商交渉に盛り込みたい考えを示している。日本側はこれに反対する姿勢を示しており、為替については財務相間で議論するとしている。

トランプ大統領が「通商における歴史的転換点」と評した昨年の米韓自由貿易協定(FTA)では、両国が競争的な通貨切り下げを禁じ、金融政策の透明性と説明責任を約束する「為替条項」の導入で合意したと米国側は主張している。

三井住友銀行・チーフストラテジストの宇野大介氏は「中国との通商協議が平行線であることを踏まえると、米国がよりくみしやすい日本に対しては8月以降、為替相殺関税や為替条項を含めて、日米通商交渉に米国側の要求がいくらでも盛り込まれる可能性を報告書は示唆している」と指摘。夏場にかけて円高リスクの高まりを警戒すべきと語っている。

森佳子 編集:伊賀大記

[東京 29日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 世界も「老害」戦争
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月25日号(11月18日発売)は「世界も『老害』戦争」特集。アメリカやヨーロッパでも若者が高齢者の「犠牲」に

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

COP30が閉幕、災害対策資金3倍に 脱化石燃料に

ワールド

G20首脳会議が開幕、米国抜きで首脳宣言採択 トラ

ワールド

アングル:富の世襲続くイタリア、低い相続税が「特権

ワールド

アングル:石炭依存の東南アジア、長期電力購入契約が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 5
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 6
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 7
    Spotifyからも削除...「今年の一曲」と大絶賛の楽曲…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中