最新記事

日本経済

「景気後退」濃厚に 安倍政権、増税は世界経済頼みに

2019年4月26日(金)16時58分

4月26日、3月の鉱工業生産が前月比0.9%減となり、1-3月期の日本経済がゼロないしマイナス成長となる公算が高まった。景気動向指数でも「景気後退」入りとなることが確実だ。写真は川崎で昨年9月撮影(2019年 ロイター/Kim Kyung Hoon)

3月の鉱工業生産が前月比0.9%減となり、1-3月期の日本経済がゼロないしマイナス成長となる公算が高まった。景気動向指数でも「景気後退」入りとなることが確実だ。しかし政府内では、4月以降の中国経済や世界経済の底打ち感に期待する声が目立つ。4-6月期がプラス成長に回復するなら景気悪化を強調する必要もないとして、10月の消費税率上げに向けた経済環境は、中国をはじめとする海外経済で見極めたいとしている。

生産悪化で景気後退条件満たす

「すでに景気後退と認定される可能性が一段と高まっている」──3月鉱工業生産が前月比マイナスとなり、景気動向指数上の「悪化」の条件が満たされたことで、第一生命経済研究所・主席エコノミストの新家義貴氏は今後も景気は綱渡り状態が続く可能性が高いとみている。

1-3月期の国内総生産(GDP)も、基礎統計としてウエートの高い鉱工業生産が前期比2.6%の減となったことから、当初はプラスとの見方が大勢だったものの、マイナスないしゼロ成長を予測する調査機関が目立ってきた。みずほ総研シニアマーケットエコノミストの末廣徹氏は、年率1.5%のマイナス成長と試算している。同氏は、見かけ以上に内容が悪く、民間消費はマイナス、設備投資も外需低迷により大幅減になると見込んでいる。

民間調査機関の間では先行きを楽観する声も多くはない。生産予測指数は4、5月とも上昇し、新年度入り後の日本経済は持ち直すように見える。しかし4月は10連休を控えて在庫積み増しの増産も含まれており、経済産業省が補正した予測では0.5%の減産予測となっている。5月の大幅増産予測も「異例の10連休の反映がうまく処理されているのか不明で、4月の実績を踏まえて判断する必要がある」(SMBC日興証券・シニアエコノミスト・宮前耕也氏)との指摘がある。

1-3月は過去、中国指標の底打ち感に安堵

景気後退との見方が広がれば、10月に予定されている消費税率引き上げ判断の元となる景気認識にも影響が出かねないが、政府に「緩やかな回復」という見方を変更する動きは見られない。景気動向指数の「悪化」判断も、経済指標を機械的に判断したものに過ぎず、政府の意向が反映される「月例経済報告」はそれと連動するものではない。

政府内では1-3月の景気についてはあくまで「過去のこと」と受け止める声も出ている。昨年秋以降の世界経済の減速による生産・輸出の悪化はすでに顕著に表れていた事実であり、マイナス成長に陥ることも予想の範囲内だった。

一方で、中国経済の底入れを示す指標に安どの声が聞かれる。

中国国家統計局が発表した3月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は業況改善・悪化の分かれ目となる50を4カ月ぶりに上回った。世界の荷動きを示すバルチック海運指数も、昨年末以来の悪化・停滞から、4月に入り上昇に向かい始めている。

今回の日本の景気停滞は、中国経済の減速を起点に世界経済に波及し、国内の生産・輸出に影響したものであり、こうした外部指標の底打ち感は、海外経済が心配したほどの悪化に至らないとの安ど感に繋がっている。

さらに、政府内には、今後の景気をみる上では国内指標より海外経済の方が説明しやすいとみる向きもある。4、5月の経済指標は異例の長さとなる大型連休の影響で振れが大きくなることも予想されるほか、4-6月期の経済実態を判断するには7、8月まで待つ必要があるためだ。

経済官庁幹部の一人は、世界経済がボトムアウトしてくれば生産・輸出の悪化も止まり、内需への波及も避けられるとみる。「1-3月のマイナス成長は致し方ないとして、4-6月にプラス成長に戻るのであれば景気悪化という必要はないかもしれない」との見方を示す。

(中川泉 編集:石田仁志)

[東京 26日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 高市早苗研究
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月4日/11日号(10月28日発売)は「高市早苗研究」特集。課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

中国工業部門利益、9月は21.6%増 2カ月連続の

ビジネス

為替相場の過度な変動や無秩序な動き、しっかりと見極

ビジネス

米企業、消費の二極化に直面 低所得層の苦境強まる

ワールド

豪首相、駐米大使をまた擁護 トランプ氏の新たな発言
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水の支配」の日本で起こっていること
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 5
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 6
    「平均47秒」ヒトの集中力は過去20年で半減以下にな…
  • 7
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 8
    1700年続く発酵の知恵...秋バテに効く「あの飲み物」…
  • 9
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 10
    【テイラー・スウィフト】薄着なのに...黒タンクトッ…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 10
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中