最新記事

選挙

インドネシア大統領選、本日投開票 現職ジョコ・ウィドド大統領が優勢

2019年4月17日(水)20時50分
大塚智彦(PanAsiaNews)

実績vs.生活関連公約の選挙戦

4月13日まで続いた激しい選挙戦では、ジョコ・ウィドド大統領が過去5年間の政権運営の実績を前面に出して政策の継続を強く訴えた。現政権は空港、港湾、鉄道、高速道路、橋梁などのインフラ整備で全土で人と物の移動の効率化を積極的に進めてきた。

一方で国是である「多様性の中の統一」や「寛容」を促進するための施策も打ち出してきた。しかしこれが世界最大のイスラム教徒人口であり、世界第4位の人口約2億6000万人の約88%を占めるイスラム教徒の中の強硬派、急進派から「イスラム教を軽視している」との批判を招く結果となり窮地に追い込まれたこともあった。

インドネシアの選挙はいかにイスラム教徒の票田を獲得するかが最大のカギとなることから、ジョコ・ウィドド大統領はペアを組む副大統領候補にイスラム教指導者で、イスラム教団体の長老でもあるマアルフ・アミン氏を75歳という高齢にも関わらずに選んだ。これはイスラム教重視を訴え、イスラム教徒の票を取り込む戦略にほかならず、伝統的なイスラム教組織やイスラム教政党の支持を固めることに成功した。

一方のプラボウォ氏は副大統領候補に49歳と若いビジネスマン出身のサンディアガ・ウノ前ジャカルタ特別州副知事を選び、女性票、ミレニアル世代、そしてイスラム急進派などの支持を得て選挙戦を戦ってきた。

プラボウォ氏は絶叫調の演説、元軍人らしく敬礼であいさつ。ときには白馬にまたがってのパフォーマンスと独自の選挙戦術で「強い指導者」の姿を有権者に印象付けた。

そして集会や大統領候補テレビ公開討論会などでたびたび言及したのが現政権の経済政策の失敗への批判と「生活関連物品の値下げ、電気料金の値下げ、農業従事者の所得増加」など国民生活に関連する経済的な公約の数々である。

こうした公約は実現の可能性より、生活難に直面する低所得者や1次産業従事者とっては魅力的なPRとなり、選挙戦後半ではじわじわと支持率を上げる結果となった。

注目は投票率と得票差

選管の投票結果の正式発表はまだ先だが、複数の開票速報は前回選挙でもほぼ正式発表に近い数値を示したことから、このままジョコ・ウィドド大統領が大統領再選を決めることはほぼ確実な情勢となっている。

こうしたなか、過去に人権侵害事件への関与疑惑が払しょくされていないプラボウォ氏と、庶民派として誰にも好かれる人物ながら国家をけん引する指導者としての政治的手腕・リーダーシップは不十分との評価もあるジョコ・ウィドド大統領、という2人の候補者の選択に魅力を感じず、「棄権」する有権者の増加が事前に予想されており、投票率がどうなるかが注目されている。

さらに両候補の得票差が接近していた場合には、プラボウォ陣営から「選挙不正があったのではないか」との訴えや「再集計を求める」などの注文が付けられる可能性もあり、最終的な得票差がどの程度になるのかも関心を集めている。

otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米財務長官、中国副首相とマレーシアで会談へ

ワールド

全米で反トランプ氏デモ、「王はいらない」 数百万人

ビジネス

アングル:中国の飲食店がシンガポールに殺到、海外展

ワールド

焦点:なぜ欧州は年金制度の「ブラックホール」と向き
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みんなそうじゃないの?」 投稿した写真が話題に
  • 4
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心…
  • 5
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 6
    大学生が「第3の労働力」に...物価高でバイト率、過…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「リンゴの生産量」が多い国…
  • 8
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 4
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 5
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 10
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中