最新記事

シリア内戦

8年続く内戦で荒廃したシリア復興は難事業

2019年4月12日(金)11時25分
ハワード・シャッツ(米ランド研究所上級エコノミスト)

首都ダマスカス近郊では復興が進んでいるが(東グータ地区) Omar Sanadiki-REUTERS

<テロ組織を一掃した後の本当の試練は独裁者アサドが居座り続ける国の復興だ>

3月、トランプ米大統領はテロ組織ISIS(自称イスラム国)のシリア内の最後の拠点を解放したと発表した。だが、大変なのはこれからだ。内戦を完全に終わらせ、荒廃した国を立て直し、国内外に逃れていた数百万人の市民を帰還させなければならない。それには人々が希望を持って暮らせる安全な環境を整え、紛争の再発を未然に防ぐ必要がある。

すぐには難しいだろう。シリアの独裁体制は変わっておらず、和平合意がなされても中身が伴いそうもないことを考えれば、紛争やテロの温床になり続ける可能性は否定できない。

内戦の損害は膨大だ。50万人近くが犠牲となり、人口の約半分が家を追われた。11~16年のGDPの累計損失額は、世界銀行の推定によると2260億ドルに達するという。

他方、復興に必要な費用についての正確な試算はまだない。シリア政府は4000億ドルと見積もるが、アサド大統領が権力の座に居座る限り、多額の資金が入ってくるはずはない。

しかも復興は無計画なまま始まりそうだ。政府は復興予算を自分たちの思惑に沿った分野に配分し、国民は外国からの送金と自分の稼ぎを家の再建に充てざるを得ないかもしれない。ロシアとイランの関与は原油とガスなどのインフラや、予算や権益が得られそうな事業の再建に限られるだろう。しかし、こうした復興計画さえも、制裁が続けば頓挫するかもしれない。

支援に手を挙げるのは誰

しかるべき環境が整えば、外国政府や欧米の民間企業からの支援が期待できる。実際、シリアとロシアの両政府は、欧米からの援助を期待している。

しかし、アメリカもドイツもフランスも支援の可能性を否定、ないしは避けている。国連安全保障理事会は「世界最高水準の透明性と説明責任の確保」「信頼に足る包摂的で非宗派的な政府の樹立」「自由で公正な選挙の実施」を求める決議を全会一致で採択した。アサドの下では無理なことばかりだ。

欧米が認めない限り、世銀などの国際機関から本格的な協力を得られない点は特に注目に値する。一方、ロシアにもイランにもそこまでの資金力はない。「一帯一路」経済圏構想を進める中国は、戦闘地域への投資には慎重だ。しかも中国の場合、資金は貸し付け、実施は中国企業となる場合が多い。

アラブ諸国の関与も限定的だろう。サウジアラビアは昨年、1億ドルを拠出したが、シリア北東部の生活支援が目的だった。財政が厳しいサウジ政府は、事業をするならもっと友好的で安定した国を選ぶだろう。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米・サウジ経済協定に署名、米製武器の大規模購入も 

ワールド

ロシア、ウクライナと真剣な協議の用意=外務次官

ワールド

米政権のウィットコフ・ケロッグ特使、15日にトルコ

ワールド

プーチン氏との直接会談が和平への唯一の道、ゼレンス
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2029年 火星の旅
特集:2029年 火星の旅
2025年5月20日号(5/13発売)

トランプが「2029年の火星に到着」を宣言。アメリカが「赤い惑星」に自給自足型の都市を築く日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    ゴルフ場の近隣住民に「パーキンソン病」多発...原因は農薬と地下水か?【最新研究】
  • 3
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映った「殺気」
  • 4
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」に…
  • 5
    あなたの下駄箱にも? 「高額転売」されている「一見…
  • 6
    「がっかり」「私なら別れる」...マラソン大会で恋人…
  • 7
    トランプ「薬価引き下げ」大統領令でも、なぜか製薬…
  • 8
    トランプは勝ったつもりでいるが...米ウ鉱物資源協定…
  • 9
    「出直し」韓国大統領選で、与党の候補者選びが大分…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映…
  • 6
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 7
    ゴルフ場の近隣住民に「パーキンソン病」多発...原因…
  • 8
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」に…
  • 9
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 6
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中