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SNSで自滅する自撮り首相トルドー、スキャンダルで進歩主義イメージが...

Living and Dying by Social Media

2019年3月18日(月)16時35分
スティーブン・マーシュ(作家)

美徳と権力は両立しない

ただし、そうした政治手法は代償を伴う。トルドーは今まさに、無垢のイメージを保ち続けなければならないという代償を払っている。

イメージと権力がせめぎ合う緊張は、2015年に自由党が政権を奪回したときから始まっている。ファースト・ネーションズ(先住民族)議会の元地域代表で部族長の娘でもあるウィルソンレイボールドは、トルドー政権の多様性の象徴だ。

カナダの先住民には、地位と権利の回復を目指してきた長い歴史がある。一方でカナダ政府は、2007 年の国連の「先住民族の権利に関する国際連合宣言(UNDRIP)」に反対した。

政治家としての純粋な美徳を考えれば、ウィルソンレイボールドはUNDRIPの導入を進めるべきだろう。しかし彼女は法相として、「インディアン法」という悪名高い国内法を守る政治的責任を負っている。

キャサリン・マッケナ環境・気候変動相も、似たような矛盾を突き付けられた。彼女はツイッターとフェイスブックの投稿で、女性は男性より気候変動から受ける影響が大きいと示唆する研究を引用した。「自分は女性と環境のために戦っている」という姿勢を強調したかったのだろう。

ただし、彼女は大臣として、アルバータ州のオイルサンド(石油成分を含む砂岩)を世界に売り込むためのパイプラインを建設する責任者でもある。「女性と環境のために」という看板はどこに行ったのか。

政治や政治学の歴史に詳しい人なら知っているとおり、美徳と権力は常に両立するわけではない。むしろ、傍観者でいるほうがはるかに楽だ。

傍観者なら、UNDRIPを取り巻く複雑な事情は無視して、インディアン法は国の不名誉だとツイッターで叫んでいればいい。物事を実現するために必要な譲歩は無視して、自分を批判する人々を女性蔑視だと名指しすればいい。

ソーシャルメディアは、美徳と権力の根本的なジレンマを見事に抹消してくれる。

偽善的な本性がウケる?

トルドー政権は今のところ、進歩的な政府として目覚ましい成果を上げている。カナダの子供の貧困率は2002年以降で最も低くなった。機能する多文化主義のとりでを守り、難民を支援している。あのドナルド・トランプ米大統領とNAFTA(北米自由貿易協定)の再交渉に成功し、嗜好用のマリフアナ(大麻)を合法化した。経済成長はG7で1位か2位をほぼ維持している。

もっとも、具体的な成果ではあるが、政治的にはあまり重要ではない。そもそもトルドー政権は、バイラルという実体のない砂の上に建てられた城なのだから。

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BLAIR GABLE-REUTERS

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