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イスラム恐怖症は過激なステージへ NZモスク襲撃で問われる移民社会と国家の品格

2019年3月29日(金)17時00分
アルモーメン・アブドーラ(東海大学・大学院文学研究科教授、国際教育センター国際教育部門教授)

近年、アメリカやヨーロッパ、今回の事件が起きたニュージーランドでもイスラム教徒の人口が急速に増え、イスラム教徒の移民は現在およそ5000万人と推定されている。

それに対する不安が反イスラム感情や、移民排斥傾向をもつ極右勢力への支持を増やしている。実際、極右勢力は欧州議会などの選挙で、それまでの限定的な存在から一気に議席を増やして躍進している。

これはフランスやドイツなどに限った話ではなく、スウェーデンやデンマークなど、他のヨーロッパ諸国にも広がっている。

「人権尊重」を理念に掲げてきた欧米社会で「反移民」を掲げる大統領や政党が躍進していることは、欧米における過激思想がいかに拡大しているかを示している。

一方、欧米社会が大切にする多文化共生の理念が健在であることは、ニュージーランド人が証明してくれた。事件を受けて、ニュージーランド政府と国民の取った行動は実に素晴らしかった。彼らが見せた包容力と、人間味に溢れる行動には世界の賞賛が集まった。ある意味で、移民と国家の関係において手本となる新たな歴史を作ったと言っても過言ではない。「国家の品格とは何か」と改めて考えるきっかけになったのではないか。

また日本の学校や家庭などではあまり議論されていないように思うが、今回のモスク襲撃は「国と自分の関係、またその絆ってなんだろう」と改めて問う出来事にもなった。

どうすれば「移民」ではなくなるのか

ここ数年、「移民」または「難民」という言葉がメディア、政治、経済および文化における議論の多くの部分を占めてきた、そしてこれからも最も重要なトピックの1つであり続けることは疑いない。日本を含む世界のさまざまな国で、政治家だけでなく一般の人々も関心を強めていくだろう。

移民とは「通常の居住地以外の国に移動し、12カ月以上のその国に滞在する人」だという。これは、1997年に当時の国連事務総長が国連統計委員会に提案した定義だ。一方、各国政府が採用している定義はバラバラのようだ。移民に関する正確な情報の把握は困難だが、2015年時点でおおよそ2億4400万人とされている。

では、「移民」を卒業するためにはどんな条件が必要なのか。どのぐらいの年月が経てば「移民」ではなくなり、自国民になれるのか。それとも、永遠に移民のままで生きていかなければならないのか。例えば、国籍を取れば移民ではなくなるのか? それとも、国籍の取得には何の意味も関係もないのか。世界の移民事情を見ると、「~系~人」が主流のようだが、これはつまり国籍取得や帰化をしようが、「移民は移民」ということなのだろうか。

私はあるとき、「どうですか皆さん、私は移民の範疇に入るでしょうか」と学生たちに尋ねてみた。「移民ではないと思います」「外国籍なので移民になりますね」と彼らは迷いながらも必死に考えて、いろいろな答えをしてくれた。さらに「私は帰化しているが、それでも移民になりますか。それとも日本人になりますか」と答えを迫ると、「日本人ではない。国籍取得や帰化をしても」「法律的に日本人になるが、やはり日本人ではない」などと、外国人が帰化しても日本人にはなれないと考える学生が圧倒的に多かった。

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