最新記事

韓国ファクトチェック

「韓国にまともな民主主義はない」アメリカも抱く誤った韓国観

AN ALLY, NOT A PUPPET

2019年3月18日(月)14時55分
ネーサン・パク(弁護士)

朝鮮戦争当時からアメリカは韓国を「守ってやる」という意識だった INTERIM ARCHIVES/GETTY IMAGES

<その韓国理解に根拠はあるか。ワシントンの政策エリートは、冷戦時代の「常識」を今も引きずっている>

首都ワシントンの権威ある保守系シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ公共政策研究所(AEI)が最近、『開かれた社会と韓国におけるその敵――右派独裁から左派独裁へ?』と題したシンポジウムを主催した。

その概要説明には次のような問い掛けがある。「報道によれば、韓国の文在寅(ムン・ジエイン)大統領はメディアを弾圧し、言論の自由を制限し、裁判官と公務員に政権与党のイデオロギーを押し付けているという。文政権は韓国での自由を制限する道をたどりつつあるのか」

この問い掛けでいみじくも露呈したのは、アメリカの外交政策に影響を及ぼす専門家サークルの見識のなさだ。文以前の2代にわたる右派政権が韓国の自由と民主主義をどれほど毀損したか、彼らは分かっていない。

文政権は司法に思想的に介入するどころか、自由と民主主義をよみがえらせようとしている。AEIの懸念とは裏腹に、文政権は朴槿恵(パク・クネ)前大統領のスキャンダルに抗議するデモを戦車でつぶそうとした軍の情報部隊を解体し、朴と癒着していた前最高裁長官を起訴させた。

これが「政権与党のイデオロギーを押し付ける」ことなのか。国民主権や三権分立を柱とする自由な民主主義を回復させる試みではないか。

文政権が「フェイクニュース」と闘うと誓ったことも誤解されている。アメリカではドナルド・トランプ大統領が嘘を連発するせいで、皮肉にもフェイクニュースという言葉は本来の意味を失い、政権にとって不都合な「本当のニュース」を意味するようなった。

韓国では事情が違う。歴代の右派政権はニュースに見せ掛けた虚偽情報を世論操作の最強の武器として使っていた。

右派のメディア批評サイト「メディア・ウォッチ」の創設者、邊熙宰(ビヨン・ヒジエ)は朴の弾劾につながった物証は捏造だと主張。韓国のテレビ局の報道をフェイクニュース呼ばわりしたため、名誉毀損で訴えられた。司法は邊の主張のほうが虚偽であると判断し、邊に有罪判決を下した。

この判決も文政権の言論弾圧だと言われているが、それは的外れだ。実際、国境なき記者団の「報道の自由度ランキング」では、韓国は2018年に前年よりも20位高い43位にランクされている。

文政権への根拠のない警戒心

ワシントンの一部に文は独裁支配を目指す野心家だといった見方があるのはなぜか。アメリカの外交政策エリートがいまだに一昔前の「常識」に基づいて韓国の国内政治の動きを読んでいるからだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

三菱重の今期、事業利益9.6%増予想 受注高は16

ワールド

アングル:前教皇の路線継承か、国際知名度低い新ロー

ビジネス

日本製鉄、山陽特殊鋼への生産集約を本格検討 大阪の

ワールド

トランプ米大統領、8日にイスラエル戦略相と会談=ア
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 2
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..最新技術で分かった「驚くべき姿」とは?
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 5
    骨は本物かニセモノか?...探検家コロンブスの「遺骨…
  • 6
    中高年になったら2種類の趣味を持っておこう...経営…
  • 7
    恥ずかしい失敗...「とんでもない服の着方」で外出し…
  • 8
    教皇選挙(コンクラーベ)で注目...「漁師の指輪」と…
  • 9
    あのアメリカで「車を持たない」選択がトレンドに …
  • 10
    韓国が「よく分からない国」になった理由...ダイナミ…
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 7
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 8
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 9
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 10
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中