最新記事

中南米

ベネズエラの危機解決は南アフリカとチリに学べ

2019年3月8日(金)16時20分
マイケル・アルバートゥス(シカゴ大学政治学准教授)

暫定大統領を宣言した野党のグアイドを米政府も支持するが Isaac Urrutia-REUTERS

<マドゥロ政権交代には軍部の説得が不可欠――野党が手本にすべき先例は外国にある>

政治の混乱が続き先が見えないベネズエラ。国会議長のフアン・グアイドは自分こそ正当な大統領だと宣言し、マドゥロ政権打倒に立ち上がれと軍部に呼び掛けている。しかし現政権下で甘い汁を吸ってきた軍部は、今のところマドゥロ大統領と一蓮托生を決め込んでいる様子だ。

今、両陣営が繰り出しているのは危険な瀬戸際政策だ。野党陣営が勝っても、壊滅状態にある経済と引き裂かれた社会を引き継ぐことになる。マドゥロが延命すれば一段と独裁化し、民主化の可能性は遠のく。

ベネズエラ危機の最も効果的な解決策は両陣営の交渉によって平和的に政権交代を行うことだが、その道は閉ざされつつある。だが世界に目を向ければ、民主的に政権交代が行われた例はいくらもある。

そこでまず大事なのは、野党陣営が結束を固めつつ、暴力に訴えかねない過激な勢力を排除することだ。急進派が与党ベネズエラ統一社会党(PSUV)議員の訴追を求めたりすれば、話はまとまらない。マドゥロ政権下で飢えや迫害、困窮する生活にあえぐ多くの国民が、チャベス主義の打倒と、このイデオロギーの有力な信奉者の訴追を望むのはもっともだ。だが現政権派の議員たちは、マドゥロが追放されても自分の身は安泰だという確信を持てない限り、交渉に応じないだろう。

マドゥロを受け入れる国

野党陣営が手本とすべきは南アフリカのマンデラ元大統領だろう。政治犯として長く刑務所に収監されていた彼は、アパルトヘイト廃止後に大統領の座に就き、民主主義の実現には忍耐が必要であることを説いた。

次に野党陣営に必要なのは、軍を説得して政権交代を受け入れさせ、マドゥロの逃亡か降伏を導くことだ。

軍部はチャベス前政権以来さまざまな経済活動から甘い汁を吸い、国営石油会社PDVSAの運営も任されてきた。野党が軍の支持を取り付けるために最も効果的なのは、PDVSAの収益の一部を軍部にも分配することだ。現にチリのピノチェト政権が89年に民政移管した後、新政権は軍上層部に恩赦と経済権益の維持を認めた。

3つ目は与党の指導部に対し、現状の維持はもはや不可能であり、政権交代後も与党議員は選挙に参加でき、運が良ければ当選できると説得することだ。ただし、彼らは未曾有の経済悪化を招いた張本人で、汚職と利益供与を続けてきたのも事実だが。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中