最新記事

イスラム国

イスラム国は地下に潜っただけ、幹部も健在 

Is ISIS really defeated if leadership is still free?

2019年3月25日(月)16時58分
ハリエット・シンクレア

クルド人勢力に降伏するISの戦闘員と女たち(3月14日、シリアのバグズ) Issam Abdallah-REUTERS

<ISのシリアにおける最後の拠点バグズは制圧したものの、幹部や戦闘員は今も地下に潜伏しており、軍事的圧力をかけ続けなければ復活する恐れがある>

シリアで米軍が支援するクルド人主体の反政府勢力「シリア民主軍(SDF)」は3月23日、テロ組織IS(自称イスラム国)の最後の拠点だったシリア東部バグズを完全制圧したとして、「勝利宣言」した。

10週間以上に及ぶ激しい奪還作戦の末、ISの支配地域を消滅させたと、SDFの報道官は言った。

「SDFはISの完全な排除と100%のISIS領土の敗北を宣言する。(掃討作戦で犠牲になった)数千人の殉教者を追悼する。彼らの努力がこの勝利を可能にした。#SDFDはISISを撃破した」と、ムスタファ・バリ報道官は3月23日にツイートした。

SDFの勝利宣言に先立つ3月22日、ドナルド・トランプ米大統領は報道陣の前でシリアの地図を示しながら、ISIS支配地域を完全に制圧したと発表。同日、ホワイトハウスも勝利宣言した。

その日、トランプはこうツイートした。「ISISはほかの誰よりもインターネットを巧みに利用する。だがISISのプロパガンダを信奉するすべての若者が今、散々な目に遭っている。ISISについて褒められることなど皆無だ。奴らは今後も言葉巧みに勧誘しようとするだろうが、しょせん負け犬で、虫の息だ。君たちはよく考えろ、自分や家族の人生を台無しにする前に」

まだ残る火種

遂に最後の拠点を制圧したとはいえ、ISの脅威がなくなるには程遠いという見解を、SDFのキノ・ガブリエル報道官は示した。

「この勝利はわれわれだけでなく、世界全体にとっても大きな節目だ」と、ガブリエルは米紙ニューヨーク・タイムズに語った。「しかしISはまだ終わっていない。確かに地上にいる戦闘員は掃討されたが、(地下に潜伏する)ISの脅威は世界各地に残ったままだ」

ISの最高指導者、アブ・バクル・アル・バグダディを含むISの主要幹部は、今も行方が分かっていない。

SDFと同様、中東を管轄する米中央軍のジョセフ・ボテル司令官も2月に米CNNのインタビューで、ISとの闘いは終結には程遠いと警告した。

「(ISISには)今も指導者や戦闘員、工作員、支援者がいる。そのネットワークを封じ込めるには、今後も軍事的圧力をかけ続ける必要がある」

トランプは昨年12月、ISISに勝利したとしてシリアから米軍を全面撤退させると表明。だが米国防総省が2月4日に発表した報告書は、米軍が撤退すればISは12カ月以内に復活し、支配地域を奪還する恐れがあると指摘した。国内外からの反対を受けたホワイトハウスは2月21日に方針を転換させ、米軍約200人の駐留を継続すると明らかにした。

(翻訳:河原里香)

ニューズウィーク日本版 ISSUES 2026
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月30日/2026年1月6号(12月23日発売)は「ISSUES 2026」特集。トランプの黄昏/中国AIに限界/米なきアジア安全保障/核使用の現実味/米ドルの賞味期限/WHO’S NEXT…2026年の世界を読む恒例の人気特集です

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン氏、来年のウクライナ緩衝地帯拡大を命令=ロ

ワールド

タイ、停戦合意に基づきカンボジア兵18人を解放

ビジネス

中国、来年の消費財下取りに89億ドル割り当て スマ

ビジネス

中国、26年投資計画発表 420億ドル規模の「二大
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 6
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 9
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 10
    日本人の「休むと迷惑」という罪悪感は、義務教育が…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中