最新記事

北朝鮮

金正恩の理想郷建設に赤信号 北朝鮮、「強制労働」の深い闇

2019年2月25日(月)15時45分

忠誠よりカネ

正恩氏の肝いり経済プロジェクトを実現するために不可欠な建設労働者の多くは、未熟練労働者と兵士たちだ。

だが、無報酬労働と供出を強いられることに対する一般市民の抵抗の高まりは、サムジョンの刷新という金正恩氏の野心にとって障害となる可能性があると脱北者や識者は指摘する。

チョさんは、旅団で3年間労働奉仕を務めれば、党員資格と大学入学を認めると当局から言われた。この約束は結局8年間に引き延ばされ、ようやく約束されていた見返りをチョさんが得たのは、1987年になってからだった。

約束が必ず守られるというわけでもない。29歳のLee Oui-ryokさんは、17歳から3年間働いた旅団を離脱し、2010年に韓国へ逃れた。自分の出身を考えれば入党資格が与えられるわけがないと悟ったからだという。

また旅団メンバーへの人権侵害は甚だしく、多くは逃亡するか、旅団から解放されるよう自分で自分の身体を傷つける、と2011年に脱北し、現在はソウルでエコノミストとなっているチョさんは言う。

現在では、資産を持つ人々は、供出品を送ったり、誰かに金を払って代役を務めてもらったり、あるいは有力者に賄賂を贈って見逃してもらうといった方法で、旅団での労働奉仕を回避している。

新たな旅団メンバーの大半は、最下層の家庭出身で、現体制と格差拡大に対する嫌悪感を抱いている、と人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア担当副ディレクター、フィル・ロバートソン氏は指摘する。

「労働意欲を与えようと、こうしたプロジェクトや正恩氏の慈愛を訴える宣伝が行われているが、現実には、労働奉仕を拒んだ者には懲罰が待っている」とロバートソン氏。「そのため通常は、ほとんど人脈もなく、賄賂を使う余裕もない、その地域で最も貧しい住民が、徴募の対象になっている」

ニューヨークの北朝鮮国連代表部にコメントを求めたが、回答は得られなかった。

米国務省は2017年、強制労働の大量動員は北朝鮮による核兵器開発プログラムを裏付ける人権侵害の1つだと表現。米国務省は7人の個人と、建設会社2社を含む3企業をブラックリストに記載している。

市場の成長と強制労働に対する市民の嫌悪感の高まりによって、全国の旅団の大半で労働の質が低下している、と脱北者は言う。

サムジョンにおける建設作業の一部が先月、安全上の理由により一時中断した、と脱北者が運営するウェブサイト「デイリーNK」向けに北朝鮮国民を定期的に取材している脱北者のカン・ミジン記者は言う。

「こうした旅団抜きに、あれほど大規模プロジェクトを北朝鮮が完成できるとは考えにくい。だが、必要な労働力を完全に確保する方法はない。だからこそ、彼らは国営メディアを通じて、より多くの人々を動員しようと画策している」とチョさんは言う。

「だが、逃げ出す人がもっと増え続けるだけだろうし、建物には亀裂が増えていくだろう。それが現実だ」

(翻訳:エァクレーレン)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 高市早苗研究
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月4日/11日号(10月28日発売)は「高市早苗研究」特集。課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

独コメルツ銀、第3四半期は予想に反して7.9%最終

ビジネス

グーグル、ドイツで過去最大の投資発表へ=経済紙

ビジネス

午後3時のドルは153円後半、9カ月ぶり高値圏で売

ワールド

英で年金引き出し増加、今月の予算案発表で非課税枠縮
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイロットが撮影した「幻想的な光景」がSNSで話題に
  • 4
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 5
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 6
    カナダ、インドからの留学申請74%を却下...大幅上昇…
  • 7
    もはや大卒に何の意味が? 借金して大学を出ても「商…
  • 8
    約500年続く和菓子屋の虎屋がハーバード大でも注目..…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中