最新記事

北朝鮮

金正恩の理想郷建設に赤信号 北朝鮮、「強制労働」の深い闇

2019年2月25日(月)15時45分

「熱くたぎる若き血潮」

正恩氏は昨年、核兵器開発プログラムの完了を宣言した後、国民の幸福が最優先事項であると述べて、経済に軸足を移した。

世界の羨望の的になる、近代的な「山間都市モデル」だと喧伝されるサムジョンは、正恩氏の新たな経済イニシアチブの柱だ。この他にも、沿岸都市ウォンサン(元山)に観光名所を作ろうとするプロジェクトも進行している。

強制青年旅団(韓国語でdolgyeokdae)と呼ばれる労働奉仕組織は、朝鮮半島が1910─45年の日本による占領から解放された後、鉄道、道路、電力網などインフラ整備を目的として正恩氏の祖父である故金日成(キム・イルソン)主席によって創設された。

ソウルを拠点とする人権擁護団体オープン・ノース・コリアの試算では、こうした旅団の抱える労働者数は2016年時点で40万人。北朝鮮の人権状況に関する2014年の国連報告によれば、その数は地方自治体の規模に応じて、自治体当たり2万人─10万人だという。

「経済制裁にもかかわらず、金正恩氏は、なぜこれほど多くの大規模建設事業にマンパワーとリソースを動員できるのだろうか。答えは簡単だ。必要ならば、国民から搾り取ればいい」。そう語るのは、オープン・ノース・コリアのディレクターで、これまで40人以上の青年旅団の元労働者に面接調査を行ってきたクォン・ウンギョン氏だ。

北朝鮮の国営メディアはこの1カ月、若者らに「熱くたぎる若き血潮」をサムジョンの刷新に捧げよう、と呼びかける連載記事を展開。正恩氏も、建設資材や補給品を現地に送った人々へ感謝を表明した。

サムジョンに送るために、冬物のジャケットや工具、靴、毛布、ビスケットを箱に詰める工員や家族、他の人々の様子が、記事や写真で紹介されている。

国家が提供するセメントや鋼材などの建設資材には限りがあるため、旅団労働者は自ら河川敷から砂利や砂を運ばなければならなくなっている、とクォン氏らは言う。

国営テレビで、12月以降10回再放送されている60分のドキュメンタリーでは、豪雪の中で石を運び、見る限り安全装備もなく高い構造物の上でレンガ積み作業をする若者たちの姿が映し出された。

朝鮮労働党の機関紙である労働新聞は先月、数千人の大学生が手作業で岩を砕き、作業初日だけで100メートルの高さの砂利の山を築いたと報じた。同紙はこの成果を、第2世界大戦中に大日本帝国軍と戦った先祖たちの努力になぞらえた。

「気温は非常に低く、米飯は氷のように固まっていたが、それを温めなおすために1秒たりとも無駄にしたくなかった。私は凍った米飯をかじりながら、抗日革命に殉じた人々に思いをはせた」──。そう書かれた生徒の日記を同紙は紹介した。

指導者に対する個人崇拝を作り上げる努力の一環として、国営メディアでは、市民の指導者に対する忠誠の誓いを強調することが多い。

だがチョさんは、そうした報道は「現実とはかけ離れている」と一蹴する。ほとんどの労働者には安全ヘルメットさえ与えられず、労働条件がひどく苛酷なため、逃亡する労働者も多いからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア、英軍施設への反撃警告 ウクライナ支援巡る英

ワールド

中国主席に「均衡の取れた貿易」要求、仏大統領と欧州

ワールド

独、駐ロ大使を一時帰国 ロシアによるサイバー攻撃疑

ワールド

ブラジル南部豪雨、80人超死亡・100人超不明 避
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 3

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 6

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 7

    メーガン妃を熱心に売り込むヘンリー王子の「マネー…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 10

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中