最新記事

ロシア

ロシア「帝国復活」プーチンの手腕

How Putin Is Perfecting His Border Plan

2018年12月7日(金)17時00分
マイケル・ハーシュ(フォーリン・ポリシー誌記者)

「海軍の日」の記念式典の際に、旧海軍省ビルを視察するプーチン(中央、17年7月) Alexei Nikolsky/Sputnik/Kremlin-REUTERS

<ウクライナとジョージアで影響力を行使――欧米と民主主義の弱体化を狙うゲームの行方は>

ロシアによるウクライナ艦船の拿捕という衝撃のニュースが流れたのが11月25日。その3日後、やはりロシアと国境を接する国ジョージア(グルジア)で大統領選の決選投票が行われた。それはこの国の針路(ロシアと欧米のどちらに接近するか)を左右する投票だった。

何の関係もなさそうに見えるが、実はこの2つの出来事、旧ソ連の勢力圏の回復・拡大という野望を抱くロシア大統領ウラジーミル・プーチンの陰謀の成否を占う上で大きな意味を持つ。なにしろ、プーチンは民主主義陣営を弱体化させるためなら手段を選ばぬ男だ。

ジョージアの大統領選でも、ロシアによる露骨な恐喝や買収、不正工作があったと、複数の国際NGOが指摘している。

ロシアの目的は、ロシア寄りとされるサロメ・ズラビシビリ候補を支援し、ミハイル・サーカシビリ元大統領の親欧米路線を受け継ぐグリゴル・ワシュゼ候補を追い落として親ロシアの政権を誕生させることにあった。そして実際、決選投票を制したのはズラビシビリだった。

プーチンは、必要とあればどんな乱暴な手も使う。08年にはジョージアの南オセチア自治州に軍隊を送り込んだ。14年にはウクライナのクリミア半島を強引に併合した。

しかも近年のプーチンは、脅迫と策略、そして武力で近隣諸国を取り込むゲームの腕を上げているようだ。そもそもジョージアは、サーカシビリの時代に比べればずっとロシアに従順になっていた。また、今のプーチンはライバルにも恵まれている。例えばアメリカのドナルド・トランプ大統領は、歴代の米大統領よりも御しやすいだろう。

かくしてプーチンはユーラシア地域で順調に影響力を拡大している。「ロシアがとりわけ重視しているのは、いわゆる緩衝地帯、つまり旧ソ連を構成していた周縁部の国々だ」と言うのは、アメリカの首都ワシントンにある国防大学のピーター・エルツォフ教授だ。「こうした地域では、いつ軍事行動があってもおかしくない。クリミア沖で起きた今回のウクライナ艦船拿捕はその一例にすぎない。事態はもっと悪化するだろう」

緩衝地帯には、ジョージアも含まれる。だからこそプーチンは08年の侵攻以降、この国の政治を操ろうと画策してきた。この夏には、NATOがウクライナやジョージアに接近するのは「ロシアに対する直接の脅威」だと警告を発している。

ジョージアの政治制度において、大統領職はかなり儀礼的なものだ。それでも今回の大統領選は2年後に予定される議会選の帰趨に直結するだけに、ロシアは深く関与してきた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

SBG、オープンAIへの出資年内完了に奔走 投資売

ワールド

ロシア軍、ウクライナの村から民間人50人連行 スム

ビジネス

カナダ小売売上高、10月は前月比0.2%減 11月

ワールド

米原油先物が上昇、週末に米がベネズエラ沖で石油タン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 7
    米空軍、嘉手納基地からロシア極東と朝鮮半島に特殊…
  • 8
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中