最新記事

ロシア

ロシア「帝国復活」プーチンの手腕

How Putin Is Perfecting His Border Plan

2018年12月7日(金)17時00分
マイケル・ハーシュ(フォーリン・ポリシー誌記者)

西欧育ちを担いで勝利

実際、11月28日の決選投票では与党「ジョージアの夢」のビジナ・イワニシビリ党首(謎の多い実業家で元首相)による大掛かりな不正操作があったとみられている。「隠れプーチン派」とされるイワニシビリの下、同党は12年以来、ジョージアの議会を支配している。

決選投票に臨んだ両候補は、どちらも露骨に親ロシアの立場を示さなかった(むしろ両者とも、相手を「プーチンの手先」と非難した)。しかしイワニシビリの推すズラビシビリ(フランスの外交官だったが、ジョージアに国籍を移した)は巧みに、ロシア政府の気分を害さないように振る舞った。

無所属で出馬した女性のズラビシビリを大統領の座に就けたことは、プーチンの巧妙さが増したことの証しかもしれない。国防大学のエルツォフも「選挙に介入していないと言い張るには、西欧育ちの人物を担ぐのが一番だった」と指摘する。

選挙には勝ったものの、国民の間でズラビシビリの人気は高くない。08年の軍事衝突の責任はプーチンではなくサーカシビリにあると示唆したこともあるし、ロシアに擦り寄ろうとしているとみられているからだ。

また彼女の陣営は「ロシアの諜報部との協力について公言していた」と、トランスペアレンシー・インターナショナルのエカ・ギガウリは言う。現在の与党は「とにかくロシアを刺激したくないらしい。協力関係にある『愛国者連合』の健闘もあって、彼らは親ロシアの政党として初めて議会を制することができた。今は有力政治家からも『NATOから恩恵を受けている国など見たことがない』といった発言が飛び出す始末だ」。

「サーカシビリはロシアを敵と考え、NATOに加わり、EUと友好関係を築き、民主的改革を進めるのが国を繁栄させる唯一の道だと主張していた」とギガウリは続ける。「しかし現政権になってからは、ロシア兵は英雄だとたたえるようなデモ行進が行われるようになった」

「管理民主主義」ゲーム

このようにイワニシビリの影響の下で、ジョージアの民主主義はロシアの意向に左右されるようになりつつある。

ズラビシビリが第1回投票で期待ほど得票を伸ばせず、決選投票にもつれ込だため、イワニシビリは票を不正に操作した。例えば、60万人の有権者が抱える借金をイワニシビリの銀行傘下の基金が肩代わりするとの発表が、11月19日にジョージアのマムカ・バフタゼ首相からあった。ちなみにイワニシビリは、ロシアの「政商」たちと似たような事業で財を成した男だ。

今回の選挙結果は「管理民主主義」というゲームにおけるプーチンの手腕の試金石だった。今後も彼がこのゲームから降りることはないだろう。彼のビジョンは第1に「(多層的な対策で相手の攻撃を遅らせる)縦深防御」だと、元米国務副長官のジェームズ・スタインバーグは言う。「第2は欧米を混乱させ、火消しに奔走させる」ことだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中閣僚貿易協議で「枠組み」到達とベセント氏、首脳

ワールド

トランプ氏がアジア歴訪開始、タイ・カンボジア和平調

ワールド

中国で「台湾光復」記念式典、共産党幹部が統一訴え

ビジネス

注目企業の決算やFOMCなど材料目白押し=今週の米
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 3
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水の支配」の日本で起こっていること
  • 4
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 5
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 6
    1700年続く発酵の知恵...秋バテに効く「あの飲み物」…
  • 7
    「平均47秒」ヒトの集中力は過去20年で半減以下にな…
  • 8
    【テイラー・スウィフト】薄着なのに...黒タンクトッ…
  • 9
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 10
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 10
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中