最新記事

一帯一路

中国、文字通りの「ピンポン外交」展開へ 一帯一路構想は新たな段階入りか

2018年12月5日(水)11時50分

12月4日、ラグビー熱が盛んなことで知られるパプアニューギニアで、卓球の普及を図る試みが起きているのは、中国の後押しがあればこそだ。パプアニューギニアのポートモレスビーにある練習施設で11月撮影(2018年 ロイター/David Gray)

太平洋諸国の1つ、パプアニューギニアの首都ポートモレスビーには中国の資金で建設されたスポーツ施設があり、その中では同国随一の卓球選手が技の向上に励んでいる。この選手は数カ月前、中国の費用で上海に派遣されることも決まった。

ラグビー熱が盛んなことで知られるパプアニューギニアで、卓球の普及を図ろうという試みはまさに中国の後押しがあればこそだ。

実際、国内で卓球の位置づけは高まっている。競技団体は、間もなく何人かの選手がオリンピック出場資格を獲得し始める可能性があるとみており、実現すれば南太平洋地域では異例で、もちろんパプアニューギニアにとっては初の卓球代表となる。

トップクラスの卓球選手らは、11月にポートモレスビーを訪れた中国の習近平国家主席と会う機会も与えられた。習氏の訪問は、太平洋の覇権を巡る中国と米国のあからさまな対立の表れだ。

習氏は訪問に先立ってパプアニューギニアの新聞に寄稿し、スポーツなどをきっかけとして国民同士の草の根の友好関係を築き上げることを目指していると述べた。

こうした中国の動きは、太平洋地域に影響力を強めつつある同国に対して西側諸国が警戒感を強める中で、習氏が掲げる巨大経済圏構想「一帯一路」がソフトパワーの推進という新たな段階に入ったことを表している。

在ポートモレスビーの中国系ビジネスマンでパプアニューギニア卓球協会代表を務めるジョージ・シャオ氏は「だれもが習近平国家主席の目標と政策実現に努めている。それは両国間の人的関係を改善するための土台(づくり)だ」と話した。

これまで中国と南太平洋諸国の関係は、ほとんどが大型インフラ整備計画を通じたもので、結果として経済力の弱い多くの島しょ国には膨大な借金が積み上がった。

南太平洋地域で中国からの借り入れが最も大きいのがパプアニューギニアで、主として道路や競技場、大学、水産加工施設などの建設費用として約5億9000万ドルの債務を抱える。

そのため西側諸国の間では、パプアニューギニアがこうした債務のために中国の意向に逆らいにくくなるとの懸念が高まってきた。先月には米国とオーストラリアが、中国側の提案を退ける目的でパプアニューギニアに海軍基地を建設すると表明した。もし中国の施設が出来上がれば、戦略的に重要なこの地域に中国海軍艦艇が停泊しかねないからだ。

南カリフォルニア大学の米中研究所で中国の政策を研究するスタンリー・ローゼン氏は、中国は「ピンポン外交」などを通じて物腰を柔らかくしていると指摘。「太平洋地域ではソフトパワーの行使が増えていく」と予想した。

中国は南太平洋地域全般で、卓球推進だけでなく中国語の学習支援やラジオ周波数帯の購入、漢方を含む医療サービス提供のための海軍の病院船派遣などの取り組みも強化しつつある。

(Charlotte Greenfield記者)

[ポートモレスビー 4日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2018トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 非婚化する世界
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年6月17日号(6月10日発売)は「非婚化する世界」特集。非婚化と少子化の波がアメリカやヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中