最新記事

オランダ

礼拝が続くうちは警官は入れない──6週間祈り続けで移民を強制退去から守る教会

Church Holds Nonstop Service to Block Deportation

2018年12月11日(火)16時33分
ジェイソン・レモン

人々は教会に救いを求める DaveBolton/iStock.

<説教で説いていることを実践する──そう言って有志の牧師が余るほど駆け付けるこの教会は、アメリカの教会と大違い?>

オランダのある教会で、国外退去を迫られているアルメニア難民の家族を守るために、6週間にわたってノンストップで礼拝が続けられている。

12月10日付けニューヨーク・タイムズ紙によると、オランダのハーグにあるベテル教会が、警察は礼拝中に教会に立ち入ることができないという、あまり知られていないオランダの法律を利用して、アルメニアに強制送還されそうになっているタムラジャン一家を守っている。一家は両親と子ども3人で、政治的な理由で父親がアルメニアから逃亡せざるをえなくなり、2010年にオランダに移り住んだ。

一家が複数回にわたり亡命申請を行ったにもかかわらず、政府はそれを認めず国外退去を求めた。政府の要求は最初は裁判で退けられたが、最終的に政府は、亡命申請を却下する決定を通すことができた。とはいえ、教会が礼拝を続け、一家が教会内にとどまっている限り、当局は法律上、国外退去を強制できない。

教会のために取材応対を引き受けている広報コンサルタントのフロリーヌ・クエゼはタイムズ紙にこう語った。「私は信仰に厚い人間ではないが、この話を耳にしたとき夫に言った。『びっくりしないで。私は教会に行きたい』。こういう行いで、教会は再び存在意義を持つことができる」

アメリカの福音派は移民嫌い

オランダのプロテスタント牧師団体でチェアマンを務めるテオ・ヘットマはCNNに対し、「私たちは、神と隣人を愛したいと考えている。そして今回の事態は明らかに、隣人への愛を実践する機会だと思う」と述べた。

ノンストップで礼拝を始めた当初はわずか数人の聖職者しかおらず、一人で夜を徹して説教しなければならない牧師もいた。しかし、この運動はたちまちオランダ全体へと広まり、国内各地の牧師たちが、交代で礼拝を続けたいとボランティアを名乗り出ている。べテル教会はいまでは、礼拝への参加を望む牧師たち全員をシフトに組み入れるのに苦労している状態だ。

一家の長女ハヤルピ・タムラジャンはCNNに対し、「本当に嬉しい。ボランティア全員に感謝している」と述べた。

オランダの右派政権が、国外退去命令を撤回するつもりはないと述べたにもかかわらず、教会側は礼拝をやめる気はない。オランダのプロテスタント教会指導者たちは、べテル教会の礼拝を支持すると正式に表明している。

礼拝に参加した牧師のイェッサ・ファン・デル・ファールトはタイムズ紙に対し、「自分たちが説いていることを実践するだけだ」と語った。

オランダのこうした動きと真っ向から対立するのが、アメリカの白人プロテスタント福音派が支持する考え方だ。公共宗教研究所(PRRI)が10月末に公表した調査結果から、白人プロテスタント福音派の51%が、難民のアメリカ入国を阻止する法律の制定に賛成していることが明らかになった。また、白人福音派の57%が、移民はアメリカ社会を脅かす存在だと感じているという。

(翻訳:ガリレオ)

20250114issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年1月14日号(1月7日発売)は「中国の宇宙軍拡」特集。軍事・民間で宇宙支配を狙う習近平政権。その静かな第一歩が南米チリから始まった

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米がAI半導体輸出規制強化へ、同盟国優遇の階層化 

ワールド

米オープンAI、投資受け入れと規制整備で米政府に協

ビジネス

情報BOX:大手金融各社、FRB利下げ予想修正 雇

ワールド

マスク氏とトランプ氏の関係、宇宙開発競争への脅威に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国の宇宙軍拡
特集:中国の宇宙軍拡
2025年1月14日号(1/ 7発売)

軍事・民間で宇宙覇権を狙う習近平政権。その静かな第一歩が南米チリから始まった

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    大麻は脳にどのような影響を及ぼすのか...? 高濃度の…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命を…
  • 7
    アルミ缶収集だけではない...ホームレスの仕事・生き…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すれば…
  • 10
    すべての移住者とつくる共生社会のために──国連IOM駐…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分からなくなったペットの姿にネット爆笑【2024年の衝撃記事 5選】
  • 4
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 5
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 6
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 7
    ロシア兵を「射殺」...相次ぐ北朝鮮兵の誤射 退却も…
  • 8
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中