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日産・ルノー・三菱自動車が29日トップ会合 すれ違う人事・資本関係での思惑

2018年11月29日(木)11時10分

資本関係見直しを模索する日産

ゴーン容疑者の不正問題は、日産にとってこれまで不満がくすぶり続けていた「ゆがんだ資本関係も見直せる、千載一遇のチャンス」(自動車業界アナリスト)でもある。「今回は踏み込んだ議論はされない」(日産幹部)予定だが、3社のトップ会合がその第一歩となる可能性もある。

別の日産幹部は「ルノーと日産が対等な関係を構築し、各社がより独立した形で、ウィン・ウィンを目指すという原点に戻るべきではないか」と述べ、ルノーとの資本関係を見直す必要性を強調する。

ルノーは日産株を約43%持ち議決権もある一方、日産はルノー株を15%持つが議決権はない。フランスの法律上、40%以上の出資を受けている企業は、出資元の企業の株式を保有していても議決権を持てないためだ。

両社の資本関係は1999年に経営危機に陥った日産をルノーが救済したことに始まるが、現在はルノーを日産の業績が支えている。日産は販売台数や収益力などの点でルノーを上回っているが、資本面ではルノーに支配される形だ。業務面でも「ルノー救済策」(元・日産幹部)とみられる判断が、たびたびあったという。

ゆがみを解消するために取りうる選択肢として、1)ルノーの日産への出資比率を40%未満に引き下げれば、日産が議決権を持てる可能性がある(フランスの法律に基づく)、2)日産がルノー株を25%まで買い増せば、ルノーが持つ日産に対する議決権が消える(日本の法律に基づく)――の2つがあるとみられている。

協定の見直し

協定の見直しも焦点だ。日産とルノー間には1999年の提携時に結ばれた、取締役会の構成や資本関係などに関する協定(RAMA)がある。ルノーが日産に会長を含むCOO以上の役職者を送り込むことなどを定めており、これまで数回にわたり改定されてきた。

関係者によると、日産のゴーン前会長解任に際し、ルノーは日産に解任決議の先送りや後任会長の指名を申し入れたが、日産はこれを拒否。日産はゴーン容疑者の後任会長に日本人の取締役を充てる予定だが、ルノーはRAMAを根拠に反対し、後任会長を送り込む可能性もある。

2015年には、フランス政府が株式を2年以上保有した株主の議決権が2倍になるフロランジュ法を制定し、日産の経営への関与を強めようとした。

この際、両社は日産の経営の独立性を保つことに合意、協定に盛り込まれた。

具体的には、ルノーが日産の承認を得ずに、日産株を買い増したり、株主総会に決議提案しないことなどを明記。ルノーやフランス政府が日産の経営に介入するなど合意内容に反した場合、日産はルノーへの出資比率を25%以上に引き上げられ、日本の法律に基づき、ルノーの議決権を消せるようにした。

今後、この切り札を日産が行使する意思をにじませつつ、資本関係の見直しを求めることもできる。

ただ、先の自動車業界アナリストは「協定をちらつかせたら、ルノーの不信感を再び買うかもしれない。日産がルノー株を買い増しても配当をもらえる程度。あまり意味がない。ルノーの議決権を消すためだけに金を使うのかと、日産の株主はがっかりする」といい、「一番現実的なのは『現状維持』ではないか」とも語る。

フランスのマクロン大統領の支持率は、燃料課税引き上げの影響もあり低迷している。国内投資や雇用の増加を通じて支持率の回復を図ろうとするこの局面で、ルノーの雇用増は、マクロン大統領にとって極めて重要な要素となっている。

今年2月、ゴーン容疑者のルノーCEO再任時に、マクロン大統領は、続投の条件として日産との「不可逆的な関係」を求めていた。それだけにルノーの日産への支配力が弱まる選択肢をやすやすと受け入れる政治的な環境ではないとの指摘も、ルノー・日産関係に詳しい関係者から出ている。

電動車や自動運転などの技術開発、パワートレーンなど基幹部品の共通化、部品調達などの事業面では「もう別れられない」(日産幹部)3社。日産とルノー、そしてフランス政府は歩み寄れるか。それとも平行線か。会合の内容や3社連合の行方に内外の注目が集まっている。

(白木真紀 取材協力:Laurence Frost、Daniel Leussink 編集:田巻一彦)

[東京 29日 ロイター]


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