最新記事

人種差別

アジア系には家を貸したくない(豪・人種差別調査)

Asians out! Not in this suburb. Not in this apartment

2018年11月28日(水)19時00分
アラナ・カンプ(ウェスタンシドニー大学研究フェロー)他

シドニーのチャイナタウンでも人種的落書きなど嫌がらせがある ai_yoshi/iStock

<アジア系オーストラリア人は家探しで人種差別を受ける割合が高いことがわかった。住宅差別は、健康や雇用、移動、教育などすべての格差の元凶になる。速やかな是正が望まれる>

オーストラリアで家を探すなら、不公平を覚悟したほうがいい。

われわれが行った最近の研究で、「人種」が重要な意味を持つことが明らかになった。多くのオーストラリア人は人種差別と文化の違いによる差別を経験している。

アジア系ではとくに顕著だ。彼らは日常生活のあらゆる場面で人種差別を経験するのだが、家を賃貸または購入するときはとくにひどい。

オーストラリア生まれでも

オーストラリア人6001名を対象に2015~2016年に実施したインターネット調査で、われわれはオーストラリアにおける人種差別的な意識や経験の幅を測定。出生地や家庭で話す言語が、人種差別にどれほど影響を与えるかを検証した。

その結果、本人が外国生まれ、または両親が外国生まれで家庭で英語以外の言語を話している場合、ほかのオーストラリア人より人種差別を受ける頻度が増えることが明らかになった。人種差別は職場や学校、ショッピングセンター、公共スペースやインターネットなど、さまざまな場面で行われる。

アジア出身の回答者は、日常的に人種差別を受ける割合がほかのオーストラリア人の2倍に上った。アジア系オーストラリア人は84%が人種差別を経験している。

両親がアジア出身で本人はオーストラリア生まれの場合でも、人種差別を受ける割合は同じく高かった(86%)。

家庭でアジア系の言語を話している場合も、人種差別を受ける割合が高い。とくに南アジアと東アジアの言語を話す人は差別される割合が85%、88%と高い。これに対して、西南/中央アジアや東南アジアの言語を話す人はそれぞれ79%と78%で、英語以外の言語を話すほかの人種と同程度だった。

アジア系を標的にした住宅差別

1990年代の豪南東部ニューサウスウェールズ州と北東部クイーンズランド州を調査した研究結果によれば、住宅を賃貸または購入する際に人種差別を経験したと回答したオーストラリア人の割合は6.4%だった。われわれが実施したインターネット調査では、その割合が急増していた。近年では、オーストラリア人の24%が住宅差別を経験していた。

アジア系オーストラリア人は自分たちが住宅差別の標的にされていると感じている。回答したアジア出身のオーストラリア人のほぼ10人に6人(59%)が家探しの際に人種差別を受けていた。アジア系以外の人ではその割合はわずか19%だった。

アジア出身の回答者は、住宅差別が多いと答える割合も高かった。うち13%が差別される回数は「多い」「非常に多い」と回答した。その割合はアジア以外の外国で生まれたオーストラリア人の平均より3倍以上高かった。

住宅差別の被害を受ける頻度が特に高かったのは、北東アジア(15%)および南/中央アジア(16%)生まれの人々だった。東南アジア生まれだと、わずか9%だった。

調査では、両親が2人ともアジア出身の場合は住宅差別を受ける割合が極め高い(44%)ことも分かった。同様に、家庭で英語以外の言語(特にアジア系の言語)を話す人もその割合が高かった(45%)。

南アジア言語(ヒンディー語、タミル語、シンハラ語など)を話す人は住宅差別を受ける割合が跳ね上がり、63%だった。東アジア言語(中国語、日本語、韓国語)を話す人だと55%、英語しか話さない人だとわずか19%だった。

強まる反中感情

これらの調査結果が示すのは、アジア系オーストラリア人による空間の取得や占有が、アングロサクソン系オーストラリア人に対する脅威と見られていることだ。また不動産の仲介業者や所有者の多くが、アジア系の客は怪しい、客として質が劣るという偏見を持っている。まるで、アジア人は生物学的に劣っていると信じられていた植民地時代のようだ。

チャイナタウンへの嫌がらせや、シドニー近郊のカブラマッタやメルボルン近郊のリッチモンドに中国系ベトナム人が大量移民してきたことに対する反発の背景には、アジア系は邪悪で不潔で無秩序だ、というステレオタイプの影響がある。

中国嫌いも強まっている。不動産投資や政党への巨額献金、大学に対する影響力拡大、農地や鉱山の買占めなど、中国人が何か目立つことをすると反発が起きる。中国政府の影響力拡大や地政学上の懸念、中国国内の人権抑圧という背景もそれを助長する。今は議論を通り越して煽情的な言論や過剰反応を引き起こし、中国系住民に対する敵意に変わりつつある。

当局は人種差別禁止の法を執行せよ

住宅のように暮らしに欠かせない市場から特定の人種を排除すれば、埋めがたい格差が生まれる恐れがある。それは健康や雇用、移動や教育などにも影響する。人種隔離や世代間格差など、社会全体の問題に発展する恐れもある。

オーストラリアには、住宅を含むモノやサービスの利用における人種差別を禁じる法律がある。今回の研究結果から、住宅差別は特定の人種、とりわけアジア系で深刻であることが分かった。目に見える不平等に対し、当局の対応が望まれる。

(翻訳:河原里香)

You can find other articles in the series here.The Conversation

Alanna Kamp, Postdoctoral Research Fellow in Australian Cultural Geography, Western Sydney University; Ana-Maria Bliuc, Senior Lecturer in Social Psychology, Western Sydney University; Kathleen Blair, PhD Candidate, School of Social Sciences and Psychology, Western Sydney University, and Kevin Dunn, Dean of the School of Social Science and Psychology, Western Sydney University

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

香港GDP、第3四半期は前年比+3.8% 予想上回

ワールド

北朝鮮の金永南・前最高人民会議常任委員長が死去、9

ワールド

高市首相、来夏に成長戦略策定へ 「危機管理投資」が

ワールド

マクロスコープ:国会本格論戦へ、立憲は消費減税で攻
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつかない現象を軍も警戒
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中