最新記事

動物

アジアゾウはヒトと類似する数量認知能力を持つ──日本の研究チームの発表が話題に

2018年10月31日(水)17時03分
松岡由希子

タッチパネルでテストするアジアゾウ Credit: Ethological Society and Springer Japan KK, part of Springer Nature 2018

<日本の研究チームが、アジアゾウにヒトと類似する数量認知能力が備わっていることを初めて明らかにし、欧米のメディアでも広く採り上げられている>

私たちには数量認知能力があり、数字などの記号や言葉を使って数を数えている。では、ヒトと同様の数量認知能力を持つ動物は、他に存在するのだろうか。このほど、日本の研究チームが、アジアゾウにヒトと類似する数量認知能力が備わっていることを初めて明らかにし、欧米のメディアでも広く採り上げられている。

タッチパネルを使った数量認知実験を行った

総合研究大学院大学の入江尚子研究員を中心とする研究チームは、東京都恩賜上野動物園で飼育されているメスのアジアゾウ「ウタイ」を対象にタッチパネルを使った数量認知実験を行い、その研究成果を2018年10月22日、学術雑誌「ジャーナル・オブ・エソロジー」で発表した。

この実験では、46インチの大型タッチパネル画面の左右に、1から10までの2種類の数量をリンゴ、バナナ、スイカで表示し、数の多い方を鼻で選択させた。「ウタイ」は271回のうち181回で正しく選び、その正答率は66.8%であった。

matuoka1031b.jpg

Credit: Ethological Society and Springer Japan KK, part of Springer Nature 2018

2種類の数量の組み合わせによって正答率に変化があるのかについても検証した。その結果、比較する2種類の数量の差が小さくなったり、2種類の数量を合わせた総量が大きくなっても、正答率に変化はみられなかった。

また、正答時の回答時間を記録し、分析した。2種類の数の総量は回答時間に影響しなかったものの、2種類の数の差が小さくなるほど、数の比が1に近づくほど、回答時間が長くなった。これは、「ウタイ」が難易度の高い数量比較においてはより精密な判断を必要とし、多くの時間をかけたためと考えられている。

言語のない種がヒトと類似する相対的数量認知能力を持つことを初めて示す

これまでにも、グッピーなどの小型魚カエルミツバチアフリカライオン、アカゲザル、カラスなどに数を認識する能力があることがわかっているが、「ウタイ」の実験結果によれば、アジアゾウは、数量の差や比、総量に影響されない高度な相対的数量認知能力を持ち、難易度の高いとみられる課題には精密な判断を必要とするという点で、これまで研究対象となった他の種とは異なっている。研究チームは「言語のない種がヒトと類似する相対的数量認知能力を持つことを初めて示すものだ」と述べている。

米コロラド州立大学のジョージ・ウィッテマイヤー教授は、米デジタルメディア「インヴァース」の取材に対して「この研究成果はアジアゾウの数量認知能力を解明するうえで興味深いものだ」と高く評価するとともに、採餌の判断をしなければならない野生のゾウならば、数量認知能力はさらに高まるのではないかとの見解を示している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ナワリヌイ氏殺害、プーチン氏は命じず 米当局分析=

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「気持ち悪い」「恥ずかしい...」ジェニファー・ロペ…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 7

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 8

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中