最新記事

音楽

ストリーミングサービス「スポティファイ」は音楽シーンをここまで変えた

SPOTIFY AT 10

2018年10月30日(火)16時40分
イブ・ワトリング

再生回数でぶっちぎりのトップになったのはカナダ出身のラッパー、ドレイク Peter Llewellyn-USA Today Sports-REUTERS

<知られざる名曲やアーティストの発掘にも貢献――世界最強音楽ストリーミングサービス企業の10年>

08年の音楽の楽しみ方は今とは大違いだった。音楽をダウンロードしてiPodで聴くのはまだ一般的ではなく、主流はCD。CDの年間売り上げはアメリカだけで31億ドルに上った。

だが革命の兆しはあった。その3年前に誕生した無料動画公開サイト YouTube が音楽ストリーミング配信の場としても人気になり、08年10月には音楽配信サービスのスポティファイが登場。バッファ処理やダウンロードの間待たされることなく、膨大なデータベースから音楽を楽しめるようになった。

それから10年。Wi-Fi対応のスマートフォンがiPodに取って代わり、CDは完全に時代遅れになって、スポティファイは絶大な影響力を手にした。ドイツの統計調査会社スタティスタによれば、13年にはアクティブユーザー数が3000万人を突破、有料会員は800万人に。今年にはそれぞれ1億8000万人と8300万人に増えた。4月にはニューヨーク証券取引所に上場し、現在の時価総額は286億ドルだ。

スポティファイの躍進は音楽業界も変えた。人気プレイリストになるとフォロワー数は数百万人。ラジオに代わるプロモーションツールとして将来有望なアーティストに引っ張りだこだ。

音楽のフラット化もスポティファイ躍進の副産物だろう。いつでもどんな音楽にもクリック1つでアクセスできるので、多くのミレニアル世代(80年代~2000年代初頭生まれ)が幅広い音楽を聴くようになった。世界の人気アーティストがアメリカで注目されるチャンスでもある。現に上位にランクインする曲の多くがヒスパニックやアジア系で、KポップのバンドBTS(防弾少年団)が再生回数でレディー・ガガを上回る。

楽曲使用料などに批判も

ただし批判も付きまとう。大問題になっているのは1再生当たりの楽曲使用料だ。テイラー・スウィフトやプリンスなど一部の大御所はプラットフォームの利用に抵抗したことも(そうしたアーティストはスポティファイでの配信を拒むケースもあり、人気があっても上位にランクインしない)。一方、大物以外はプラットフォームに頼らないと厳しいのが現状だ。

人工知能(AI)がユーザーの好みや傾向を反映して作成するプレイリストが悪い傾向に拍車を掛ける、との批判もある。人気のリストには女性はあまり登場せず、ストリーミング革命の恩恵に浴しているのは圧倒的に男性だ。曲も被害を受ける。最初の数秒でリスナーを引き付けないとスキップされてしまう。

それでもスポティファイは定着した。アマゾン・ドットコムやアンドロイドやアップル、アーティスト主導のタイダルなども参入し、今やストリーミングサービスは花盛りだ。

ではスポティファイ時代のスターは誰か。本誌は海外音源チャート統合サイトKworbのデータを基に、スポティファイで最も再生された20人をリストアップした(文末ランキング参照)。リスナーの年齢層(アメリカ在住のリスナーの半数以上が35歳未満)を反映してかアーティストも若い。ジャンル別ではヒップ・ホップやエレクトロニック・ミュージックが大人気で、時折ポップ・ロックも顔を出す。若者パワーが躍進のカギというわけだ。

<スポティファイ再生ランキング>
1位 ドレイク         143億回
2位 エド・シーラン      94億回
3位 ジャスティン・ビーバー  89億回
4位 ポスト・マローン     66億回
5位 J・バルヴィン       62億回
6位 ザ・ウィークエンド    58億回
7位 オズナ          54億回
8位 ザ・チェインスモーカーズ 53億回
9位 ケンドリック・ラマー   47億回
10位 カルビン・ハリス    46億回
11位 ダディー・ヤンキー   45億回
12位 リアーナ        44億回
13位 バッド・バニー     43億回
14位 カリード        42億回
15位 アリアナ・グランデ   42億回
16位 ニッキー・ミナージュ  40億回
17位 セレーナ・ゴメス    38億回
18位 XXXテンタシオン    38億回
19位 イマジン・ドランゴンズ 37億回
20位 フューチャー      37億回

*1000万の位以下は切り捨て

[2018年10月30日号掲載]

ニューズウィーク日本版 世界最高の投手
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月18日号(11月11日発売)は「世界最高の投手」特集。[保存版]日本最高の投手がMLB最高の投手に―― 全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の2025年

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 3
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...その正体は身近な「あの生き物」
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 8
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 9
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 10
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中