最新記事

ウイグル

ムスリム世界が「同胞」ウイグルの悲劇を無視する訳

Cold Brotherhood

2018年10月18日(木)19時00分
ニチン・コカ(ジャーナリスト)

習近平のトルコ訪問に抗議するウイグル人(2012年、アンカラ) REUTERS

<同じ信仰を持つウイグル人への人類史上例を見ない弾圧に、イスラム教国が抗議しない理由は? 本誌10月23日号「日本人がまだ知らない ウイグル弾圧」特集より>

※本誌10/23号(10/16発売)は「日本人がまだ知らない ウイグル弾圧」特集。過去に例のない規模で少数民族ウイグル人を強制収容所に閉じ込め、共同体ごと洗脳しようとしている中国共産党の人権侵害をレポート。

トルコ語と同じテュルク語系の言語を話し、イスラム教を信仰するウイグル人。その最大100万人が中国政府の「再教育施設」に入れられ、多くの市民が無数の監視カメラで一挙手一投足を見張られているという。ところが、そんな国を挙げてのウイグル人弾圧に対して、世界のイスラム教徒はおおむね沈黙を守っている。

パレスチナ人が受ける不当な扱いや、ミャンマーのロヒンギャが受ける迫害には、世界中のイスラム教徒が激怒して非難の声を上げるが、ウイグル人のためには小さな声さえ上がらない。この10年間、イスラム教徒が多数派を占める国(ここでは便宜的に「ムスリム国家」と呼ぶことにする)のリーダーで、ウイグル人支持を明確に表明した人物は1人もいない。

それどころか中国との関係を強化したり、ひどい場合は、中国政府によるウイグル迫害を事実上容認するムスリム国家も少なくない。エジプト政府は昨年夏、ウイグル人数百人を中国に強制送還した。そんなことをすれば、彼らは一生獄中生活を送ることになるか、処刑される可能性もあると分かっているのに、だ。マレーシアとパキスタンも11年に同じことをしている。

これが、欧米諸国とりわけイスラエルがイスラム教徒を迫害しているというニュースだったら、反応は全く異なる。パレスチナ自治区ガザで起きた事件は、中東だけでなく遠く離れたバングラデシュやインドネシアなどイスラム世界全体の怒りを呼ぶ。もしエジプトやマレーシアが、パレスチナ人をイスラエルに強制送還したりすれば、猛烈な非難を浴びるだろう。

明らかに宗教弾圧的要素を持つウイグル人迫害が、同じような反応を引き起こさないのはなぜなのか。その答えの1つは、「カネがものをいう」、なのかもしれない。

今や中国は、ほぼ全てのムスリム国家にとって重要な貿易相手国だ。その多くが中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)か、広域経済圏構想「一帯一路」に参加している。中国は南アジアでインフラ投資を進め、東南アジアでパーム油や石炭といった原材料を大量に買い付け、中東諸国にとっては最大の石油輸出先だ。

わずかに期待できる3つの国

ウイグル人の苦境が無視されている背景には、ほかにも残酷な理由がある。例えば、パレスチナの運命は、イスラム教最大の聖地の1つであるエルサレムの運命と直結しているが、ウイグルはイスラム世界の極めて周縁に位置する。多くのイスラム教徒にとって中国は縁が薄い上に、アメリカやイスラエルのように常にその脅威を意識せざるを得ない存在ではない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ロ首脳が電話会談、プーチン氏はウ和平交渉巡る立場

ワールド

ロ、ウ軍のプーチン氏公邸攻撃試みを非難 ゼレンスキ

ワールド

中国のデジタル人民元、26年から利子付きに 国営放

ビジネス

米中古住宅仮契約指数、11月は3.3%上昇 約3年
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 5
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 6
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 7
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 8
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 8
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中